夢のかけら
□2話
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グラグラと横とも縦ともわからず揺れている。
かなり大きな揺れだ。今まで経験した中で一番の揺れにひなたはさらに目を強くつぶった。
こんなおんぼろの寮なんてすぐにでも崩れてしまいそうなほどだ。
でもおかしい。
壁がきしむ音も何かが揺れる音もしない。
それにこれほどの揺れなのに何かが落ちる音も聞こえてこない。それを不思議に思っていると揺れが突然ピタリと止まった。
ひなたはそっと目を開ける。
「……え…?」
目を開いた瞬間周りの音が一気に耳に流れ込んできた。
目が移すものを理解出来なくて、周りをすばやく見渡す。
上を見れば夕暮れの紅に染まる空。
下には灰色の石畳。
正面には行き交う人々。
日本離れした街並み。
「ちょっと待って…」
頭を抱え、もう一度目をつぶる。でも、周りの喧騒は止まず耳に入ってくる。
目を開けても景色は変わらない。
どこかの街の中にひなたはいる。
道の真ん中でただ立ち尽くすひなたを人々は邪魔そうに避けて通っていく。そしてその人々から送られてくる不審そうな視線が、ひなたが「ここ」にいることを証明している。
(夢……の中…?)
一先ず視線が痛くて無意識に道の端の方へと後退る。
(それにしてもリアルすぎる…)
いつだって夢の景色は曖昧でぼんやりとしていたのに、今はくっきり通行人一人一人の顔も良く見える。
自分の身体だって思うように動く。
それに、どこを見てもあの人の姿が見当たらない。
いつだって現われてたあの人がいない。
歩けば地面の感触を足の裏に感じるし、頬には風が当たるのを感じる。後退って壁にぶつかった背中にはひやっとした冷たさも感じている。
(これは、もしかしたら……。)
「本当に来ちゃった……の?」
ひなたは力が抜けへなへなと地面に崩れた。