夢のかけら
□4話
1ページ/73ページ
жжжжж
(まさかあの子とはね)
顔が緩みそうになるのを堪えながら男は賑やかな魔術師の家を後にした。
そして外へ出た直後、視界がじわじわと暗くなりだした。
数秒の間は暗闇が続き、全身に空気がのし掛かっているように重くなる。まるで空間に逆らい移動することを空気が妨げようとしているように男は感じていた。
何度経験しても慣れない感覚に男はやはり顔を歪める。
そして視界が晴れるのと同時に重さは消え去り、薄暗く広大な部屋の中央へと足を付けていた。
夜だというのに灯りをつけないこの部屋は、暗い方があれの力を強く感じられるからと言う主の命令によるものだった。
「おかえり」
顔を上げれば、男を呼び戻した主の穏やかな笑みが月明かりに映されていた。片側だけ照らされ映る顔は端正だからこそ更に妖しく浮き出す。
人が座るには大きすぎる椅子に我が物顔で座っている主が、かつては誰もいないことを見計らいこっそりとそこへ座っていたことを男は知っていた。
だが、今となっては誰の目も気にする必要などはない。彼が主となった今は、椅子に限らず全てが彼のものだ。
「只今戻りました」
男は胸に手を当て一礼すると言葉を続けた。
「見つけましたよ。おっしゃった通り、使いも確認しました」