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□少年ロジカル
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こういうことに成るって解ってたら、こうは成らなかったのに?
そんな訳無いよ
だって僕はばかだもの。
1うさぎとおに
「うさぎちゃんが兄さんに成るなんて、ね」
何処かシニカルな微笑を浮かべながら、蜜和は言った。
「兎じゃない。宇佐木だよ」
「あははっ」
ビスクドールの美少年が、甲高い声で笑った。
「宜しくね。涙」
鬼塚 蜜和は、人形の様な顔をしている。
白い肌、小さな顔に、大きな目と瞳、整った鼻筋とブラックチェリーの口唇。
その造作にまるで非の打ち所が無い。
まるで女の子の様な容姿は、美少年という麗々しい形容がぴったり嵌まる。
光に当たると仄かな紅蓮に染まる黒髪、長めの前髪が艶やかで、色気がある。
常に絶やさぬ笑顔が無ければ、余りに美麗過ぎて冷たいほどの美貌。
「宜しくったって毎日会ってるから、あんまり新鮮じゃないな」
「一緒に暮らすのも初めてじゃないしね」
「あえて云うなら」
「久しぶり」
いま、二人は涙の部屋に居る。
けらけら笑いながら、蜜和はベッドに身を投げた。
両親の再婚により、二人は今日、兄弟になった。
二人の両親は、どちらも五年前に配偶者を亡くしている。
日本随一の大財閥、鬼塚機関の婿養子に入ったシンデレラボーイが涙の父、美和である。
家、というより屋敷と言ったほうが正確な超豪邸で、美和は元々住み込みで蜜和の母の執事をしていた。
五年前に罷免になったのだが、それまでは涙も鬼塚家で暮らしていたのだった。
しかし、一つ違いの蜜和と涙は小中高と同じ学校に通っている為、また、家が近所な為、毎日一緒に登校している。
涙は蜜和とはまた違った美少年だ。というより、イケメンというのがしっくりくる。
今時珍しい漆黒の髪はウルフカットにして、切れ長の眼を少し隠すように前髪を流し、ともすれば目つきが悪いとも言える吊り目がちな眼を優しく見せる。
180近い身長とスタイルの良さ、目鼻立ちの整った顔は、かなりモテる類いのもの。
それなりに筋肉の付いた均整の取れた体型の涙と、筋肉が付き辛く、華奢で身長も160弱と小柄な蜜和が並んで歩いていると、カップルと間違えられたりする。
蜜和はそれが愉快らしく、たまに手を繋いで歩いたりして遊ぶ。
「涙」
「ん?」
「明日から、僕のこと起こしてよね」
「一人で起きられるだろ?」
「だって昔一緒に住んでた時はそうしてたじゃないか」
「お前な、あの時は小学生だぞ?」
「涙が居なくなってから、僕は遅刻魔になったけどね。君が部活の朝練とかで迎えに来てくれなかった日とか」
「朝練は週二日だけだっただろ?」
「二日両方遅刻ってたから」
「馬鹿だな」
「だから、さ」
蜜和はにこっ、と笑った。
「起こしてよね」
じゃおやすみ
と、蜜和は言って部屋を出た。
が、すぐに顔を出した。
「また一緒に暮らせてうれしい」
あの、シニカルな笑みを浮かべる。
別れる先は三秒先の、隣の部屋。