江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶Cクチナシの花
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ヒュッと一羽のツバメが目の前を飛んで行き、巣に戻った。
ピチチ!ピチチ!
途端に餌をねだって、一斉に黄色いくちばしを目一杯開けるヒナ達。
今日は一膳飯屋のいわきやが何時にもまして繁盛し、総ざらえとなったので、早目の店じまい。
忙しかったお艶は大汗をかいたので、さっぱりしたくなり湯屋へ行った。
ついでに買い物をして帰って来た彼女は、ちょうど家の前でバッタリ亭主殿と出会う。
一緒にいた下っ引きの三太がお艶を見つめ思わず「姐さん…色っぽい♪」と呟いた。
ぱかん☆
才蔵が三太を張り倒す。「こら、人の女房を亭主の前で口説くんじゃねぇ!」
確かに湯上がりの肌がほのかに桜色に上気し、洗い髪を解いているお艶は、どこぞの錦絵になってもおかしくない色っぽさ。
つい才蔵も見とれていたので照れ隠しに三太をひっぱたいたのだ。
お艶はにっこりと亭主に向かい「お帰り、お前さん。三太もお疲れだったね。今日は又随分早いじゃないか。」
まだ日も高い。
珍しいと言って良い。
才蔵も嬉しげに「今日は事件もねぇし、神野の旦那が、たまには早く帰って恋女房と過ごしてやれ、と粋な計らいをして下さったのさ。」
お艶「そりゃ、旦那に感謝しないと。」
才蔵「お前も随分早く店じまいしたんだな。」
お艶「そう。今日は繁盛してねぇ…出す物が無くなっちゃった。だから湯屋に行った帰りに、夕飯の分買い物してたんだよ。…すぐご飯にするからね、少し待ってておくれな。三太、お前さんも食べてお行き。どうせ家にはロクなモンも無いんだろ?」
三太「図星だ。姐さんの言う通り、な〜んにも。」と笑い照れ隠しに頭を掻いた。
才蔵「お艶、後で握り飯でも持たせてやんな。朝コイツの家に行ったら、米びつに米一粒もありゃしねぇんだから。布団は万年床だし、絵双紙ばかり眺めてるんだろ?…しまいにキノコでも生えるぞ。」
三太「え?親分良く分かりやしたね、前に生えたんすよ。」
お艶「ん、もう、やだよ、この無精もん!」と眉をひそめ、才蔵は三太を叩き、「バカ野郎!早く可愛い嫁さんでも貰え!」と怒鳴った。