江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶F消えない傷跡
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シトシトと雨が降る…。
猫の額のような狭い庭先の紫陽花が、雨の中、薄紫の花を咲かせていた。
毎年梅雨のこの時期は、いつも明るいお艶の顔色が、何となくすぐれない。
お艶「ああ、もう…!毎日毎日、こう雨続きじゃあ、クサクサしちまうよ…。お天道様は何処で怠けてんだい!全く…!」
彼女らしくない物言いに、縁側で足の爪を切っていた才蔵が顔をあげた。
才蔵「…お艶姐さん、随分荒れてるじゃねぇか?お天道様にまで険屈喰らわせてよ。」
お艶「…。」
肩先を押さえる彼女に眉をひそめる才蔵「…例の傷が又痛むのか?」
お艶「……こう湿気が多いとね…シクシク疼いて…つい八つ当たりしちまった。すまないね、お前さん。」
お艶の古傷…
それは左の肩先から白い胸にかけた刀傷。
才蔵はお艶を抱く時、必ずその傷跡に唇を当てる。
…そうせずにはいられないのだ。
才蔵に取っては愛しい傷。
それはお艶が紙一重でこの世に留まった証…
自分の手に残ったしるしだから…