江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶I第6部
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…冷たい…?
気づくといつの間にか手が濡れている。
…血だ。血に染まった両の手。
ひたひた…ひたひた…何やら気配がする…
ゾワッと背筋が寒くなり、肌が粟立つ。
嫌だ嫌だ嫌だ…
見たくない見たくない…
だが、まるで誘われたかのように、彼はギクシャクと振り返った。
(…!)
悲鳴が喉を駆け上がる。
血まみれの無残な姿の一組の男女が、すぅっと彼の方へと手を伸ばした。
女は良く知っていた…顔も身体も。
その斬られた首筋から、カスカスとか細い声が漏れる。
…けい…さぶろうさ…ま…
(よ、よせ、止めろ!俺はけいさぶろうなどではない…!)
老いた男が彼を憎々しげに睨んだ。
おのれ…間男め…!何と図々しい…
気圧され、ジリジリと後ずさりする彼の背中に、ピトッと濡れた何かが張り付く。
ギョッとし首を曲げてみれば、確かに水に沈めた筈のガリガリに痩せた女がニィッと笑いかけた。
あたしゃね、あんたを逃がしゃしないよ…!
クックックッ…
あははは…
ウフフフ…
逃がしはしない
逃がしはしない…
ズブズブと彼の足元が崩れ出す…
死者達は彼を指差し嘲笑った…