江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶I第3部
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大捕り物から一夜が明け、秋も終わり…もう初冬と言って良い、朝の冷え込みだった。
コケコッコー…!
近所で飼っている鶏が鳴いた。
この家には蒲柳(ほりゅう)の質…(※病弱)な幼い息子がいる為、滋養のある卵を取る目的で鶏を飼ってるのだ。
朝から機嫌の良いおけいが、フンフンと鼻歌混じりに雨戸を開け放ったところに、才蔵が起きて来た。
「…おや、お早いお目覚めじゃないか。」
「おはよう。ぐっすり寝たからじゃない?…母ちゃん、何かご機嫌だね?」
艶やかにおけいは笑い「…まあ、事件が無事解決したからね。…気持ちよく極楽にも…。」
才蔵「…え?」
おけいはちょっと慌てて「いや、だからね、気持ちよく寝られたって話。…ああ、今日も良いお天気になりそうだこと。サッサと顔洗っておいで。」
お艶も目が覚めたらしく、障子の向こうから「おはようございます。」と声がした。
慌てておけいが飛んで行く。「お艶ちゃん、そのまま!動かない!」
案の定、お艶は自分で布団から這い出ようとしていた。
おけい「ダメだったら。右足に体重かけちゃ…。」
その右足には貼り薬とサラシがぐるぐるに巻いてある。
才蔵も部屋に顔を出した。「おはよ、お艶ちゃん。具合はどう?」
お艶「おはようございます。…熱も下がったみたいだし、もう大丈夫。」
おけい「熱はね。だけど、その足はまだダメ。大人しくしといで。」
お艶「…は〜い。」
おけいは寝間着のお艶に所々赤が入った絣(かすり)模様のちゃんちゃんこを渡した。真綿が入っているので暖かい。
「せっかく熱が下がったんだ。風邪をひくといけないからね。」
佐七も起きて顔を出し「おう、お艶坊、具合はどうだ?」と聞いてきた。
微笑んだお艶「あ、小父さん。おはようございます。おかげさまで熱は下がりました。」
佐七は安心したように破顔した。「そりゃあ、良かったな。だがよ、今聞こえたが、まだ足に負担かけちゃいけねえよ?大人しくしてるんだぜ。」
お艶は「はい。色々御心配おかけして、すみませんでした。」ペコリと頭を下げた。
佐七「バカ言っちゃいけねえ。お艶坊が謝る事なんざ何1つねぇよ。そうそう、お前を酷い目に遭わせたロクデナシ共は夕べ全員捕まえたかんな。」