江戸村でござる

□お江戸物語*才蔵とお艶@辻斬り
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真っ青になって、近所の棟梁に助けを求めたお艶の話に、直ちにそこの若い大工が使いに走り、医者を呼んだ。

引きずられるようにやって来たのは、長崎帰りの蘭方医で、幸いに外科も達者な有流と言う医者だった。

有流「…思ったより、酷くはないな。随分出血していると心配したが、雨に濡れたせいで多く見えたんだろう。薄皮一枚ってトコだ。…何があった?」手早く傷を焼酎で消毒し、縫いながら言った。

才蔵は歯を食いしばり「…多分…辻斬りで…しょう。さ、最近雨になると出てくるって…話。遂にこの辺まで…つっ!あ、足を伸ばしやがった。」

痛みに言葉も途切れ途切れ。

有流「ああ、噂で聞いたぞ。しかし良く助かったな。」

才蔵「お、俺が傘を前の方に差して…たんで刀の間合いが狂った…らしい。くっ!や、奴の踏み込み、が浅かった。とっさに火事だっ!って叫んでやった…んですよ…。」

こう言った場合、人は『人殺し!』は怖れて家から出て来なくても『火事だ!』は、聞き逃せずに飛び出して来るものだからだ。


有流「で、ソイツは逃げたんだな?」

才蔵は頷き「…わらわらと人が覗いたり、飛び出して来たんで…。」

亭主より青い顔で、治療を見守っている恋女房に何とか笑いかけると「…しかし…俺が助かったのは…コイツが無理矢理、傘を持たせてくれたおかげ、でさ…」

傷を縫い終わり、真新しいさらしを巻いて有流は「…神経にも損傷はないが、暫く痛むぞ。あまり無理はしない事だな。」

熱が出た時の為にと薬を置いて帰って行った。



お艶「もう…寿命が縮まったよ、お前さん…」涙ぐみながら言った。

血まみれの着物を広げると、肩から胸にかけ見事な袈裟がけの斬り口だ。

つくづくと「…良くも助かったモンだぜ。」才蔵は呟く。
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