江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶B事始(ことはじめ)
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それは、まだお艶が少女の頃…
両親が蕎麦屋を営んでいた時の話…
チリ、チリン…!
お艶が頭を動かす度に、髪に付けた簪が愛らしい音を立てた。
七五三のお祝いにと、彼女のお祖母ちゃんが、可愛い鈴が付いた子供用の簪を、わざわざ誂えて買ってくれたのである。
お艶はその簪が大のお気に入りで、とても大事にし、お正月や雛祭りなど、晴れ着を着た時に挿していた。
その年の正月…大晦日の忙しさも過ぎ、蕎麦屋を休んでいたお艶の家に、当時岡っ引きをしていた才蔵の父親が、倅を伴って、年賀に来たのである。
父親同士は幼なじみで親友だった。
御用で江戸の町を走り回り、普段でもめったに休めない才蔵の父親が、本当に珍しく正月に顔を見せ、お艶の父親は喜んだ。
「おめでとう、今年も宜しく」の挨拶を交わし、お互いの子供達にお年玉をやると後は将棋に熱中し始め、母親は酒をつけ、こまこまと肴を出したり、一緒に談笑していた。