江戸村でござる

□お江戸物語*才蔵とお艶Cクチナシの花
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慌てて用意しておいた、握り飯と漬け物を渡してやる。

三太「この刻限なら、まだ米屋の三好屋が開いてるんスよ。明日の朝は姐さんの握り飯があるから良いとして、それからは困りますからね。」

お艶「そうかい。じゃあ、気をつけて帰るんだよ。」

三太「へい。お休みなさい、親分。」

才蔵「おう、又明日な。たまに早く帰った時くらい、絵双紙ばかり見てねぇで、少しは掃除しろ。」

三太「へ〜い。」



才蔵の家を出た三太は呟いた「嫁さんか…。」


それから三太は、店を閉まいかけた米屋に駆け込み、米を2升ばかり買った。


わずかに明るさが残る日暮れ時…家に帰る道すがら、何処からか甘い香りが漂った。


目をやると匂いの元は白いクチナシの花…

日当たりのせいだろうか…他の蕾はまだ固いのに、一輪だけ早く蕾を開かせている。


“クチナシ”か…。

三太は辺りを見回し、人がいない事を確かめ「…お前にオイラの秘密を教えてやるよ…親分は嫁さん貰えって言うけどさ…身近に優しくて綺麗な理想の嫁さんがいたら、なかなか見つからないよ…。なあ?…おい、ここだけの話だ。内緒だぜ?」

白いクチナシの花に口止めした三太。


ひっそりと咲くクチナシ…

クチナシの花のようにひっそりとした自分の恋…

だが、クチナシはその甘い香りで己の存在を明かすのだ…。

例え闇の中だろうと…


同じように、オイラの恋も匂うんだろうか…


クチナシよ、この気持ちを隠してくんな。

誰にも…誰にも知られずにすむように…
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