江戸村でござる

□お江戸物語*才蔵とお艶F消えない傷跡
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お艶「…傷が疼くと…どうしても思い出しちまう…。」




お艶の両親は、“いわきや”と名付けた蕎麦屋を営んでいた。

彼女が13歳の時、店に浪人の押し込みが入り、売り上げを奪って逃げたのである。

小さな蕎麦屋の売り上げなどはたかが知れている。

それなのに、押し込みは両親を斬り殺し、少女だったお艶も斬った。

生き残ったのは奇跡だった。

店の蕎麦を食べに寄った才蔵の父親が、たまたま発見したのである。

当時は才蔵の父親が岡っ引きをしていた。


お艶の父は、何時も快く江戸の治安に走り回る幼なじみの才蔵の父親…佐七に、例え店を閉めてからでも蕎麦や飯を食べさせてくれた。

自分の所に寄るのは、よくよくの事だと分かっていたからである。



その日は大きな捕り物があり、佐七親分は朝から、昼飯夕飯抜きで遅くまで走り回っていた。


もう腹は空ききり限界に来ていた。

家まで保ちそうにない。

悪いと思いつつ、声をかけようとして異変に気づいた。

開け放しの戸口…

錆のような生臭い…

仕事柄良く知っているこの臭い…。
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