江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶H決意
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…畜生…!畜生!何で…!
ともすれば、滲んで来る涙を拭き、鼻をすすりながら、才蔵はこびり付いた血を落とす。
…“いわきや”はもう、しまいだ。おしまいなんだ…
才蔵は掃除をしながら痛感せずにいられなかった。
“いわきや”を支えた2人がいない…
美味い蕎麦を打ったお艶の父親信吉…
何時もニコニコ客を迎えた母親のお八重…。
2度と2人は戻って来ない。
『才蔵、良く来たな。少し待ってろ。俺の蕎麦食っていけ。』と使いに来た才蔵に、何時も蕎麦を打ってくれた信吉小父さん。
『男の子は本当にあっという間に大きくなるねぇ…』と笑って迎えてくれたお八重小母さん。
もう…もう2度と会えない。
会えないんだ…。
鼻がつぅんと痛い…
…ポタッ!ポタポタ…!
…目から落ちたしずくが土間に落ち、染みを作る。
食いしばった歯から、呻くような泣き声が漏れだした…