江戸村でござる

□お江戸物語*才蔵とお艶I第2部
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鳩村家の若い女中達は、普段でもおっかない大奥様が、ピリピリしている状態なので、まるで息が詰まるような感じである。

彼女らは義理のある人間から、ぜひにと頼まれた行儀見習いと言う名の奉公だった。

夏江にビビる2人は、お茶1つ出すにしても「さっき、あたしが出したんだから、次はあんたがやんなさいよ。」などと台所で押し付け合い。

「考えて見れば、お艶って子、よく大奥様のトコでガマンできるわよねぇ…」

「あたしならまっぴら。お暇頂いちゃうかも。大体、ここのお宅はたかが淹れ方1つで、まあ、うるさいったら…。」

そこへ「あなた達!」と若奥様の鈴の声がとんだ。

慌てて口を噤む娘達。

嘆かわしいと言った風情の鈴。
「何度言ったら分かるんです?そうやって、たかがお茶1つとバカにするから、あなた達はいつも中途半端な仕事ぶりなんですよ!部屋は丸く掃除して隅にはゴミ、洗濯物はピシッとシワも伸ばさないでクシャクシャにして干す。一事が万事です!まず自分達の事を省みなさい!言われて当然でしょう?」


厳しい叱責に小さくなる娘達にむかい「もうよろしい。あなた達がいやいや淹れたお茶など不味くて、とてもお義母様には、お出し出来ません!あっちに行ってなさい!邪魔です!お行き!」

そう雷を落とされ、娘達は台所から逃げるように出て行く。

鈴は丁寧に温度を計ったお湯で玉露を淹れ、貰い物の羊羹を添えて夏江に持って行った。
「お義母様、お茶をお持ちしました。」と声をかけ、襖をあけた。

「ああ、鈴さん。ありがとう。」そう言った姑は一晩でげっそりしているように見える。

鈴「…お義母様、少しでも横になられた方が…夕べも殆ど寝ていらっしゃらないのでしょう?お身体に障ります。」

夏江「どうもね…悪い事ばかり頭に浮かんでしまって…おちおち寝ていられないんですよ…。私は大丈夫。貴女がせっかく淹れてくれたお茶ですからね。その羊羹は頂き物かい?」

鈴「はい。新山様の奥様からですの。どうぞ。」

新山は鳩村の同僚である。
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