江戸村でござる

□お江戸物語*才蔵とお艶I第5部
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築地の近江屋へ、茂市と向かった竹造。

店の戸は閉められ、白い“忌中”の紙が貼ってある。

裏手に回り、訪問を告げると番頭が顔を出し「あ、これは…。」と会釈をした。

竹造「夕べは通夜で遅くまで大変だっただろう?朝早くからすまねえ。」

番頭「いえ、もう仕方のない事で…それで何か分かりましたか?」

竹造「残念ながらまだだ。今、煙草屋やおしのの昔の朋輩からも話を聞いて回ってる所だ。」

番頭「そうですか…。」今日は何か?と尋ねた彼に、竹造は「今一度、妾宅を調べてみようと思うんだ。それで、おかつを貸してくれねぇか?葬式で忙しいだろうが、構わねぇかな?」

番頭「おかつを。ええ、どうぞ。」彼は声をひそめ「…実は昨日、そちら様から注意されて、様子を見てましたら…やはり、かなり思い詰めているようで…旦那様も葬儀が終わり次第、暇を取らせる事に賛成なさいました。」

竹造「ああ、それがいい。」

呼ばれたおかつに、番頭が葬儀の手伝いは良いから、こちらに付いて妾宅に行くよう、言いつけた。

オドオドしているおかつは番頭と竹造達を見比べた。「…妾宅、ですか?」

竹造「そうだ。幸いと言うには、ちっとはばかるけどよ。物取りじゃねぇからタンスなんかの中身はそのまんまの筈だ。だが俺達にはどこに何があるか、サッパリ分からねぇ。何か無くなってはいないか、逆に何か増えてないか…それが手掛かりになるかも知れねえ。分かるのはおかつちゃんだけだ。頼む。俺達を手伝ってくれねぇか?」

おかつ「…あたし…あたしなんかでも、お役に立ちますか?」

側にいた茂市は大きく頷いた「おお、役立つって!他の誰よりも。妾宅の調べにはおかつちゃんが必要だ。」

番頭「…だそうだ。大旦那様の事を思うなら、少しでも早く下手人が捕まるように、お手伝いをしなさい。」

目から零れ落ちた涙を、おかつは袖で拭った。「…はい。」
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