江戸村でござる
□お江戸物語*才蔵とお艶I第6部
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「…!」
彼はガバッと跳ね起きた。
心の臓がバクバクと激しい動悸を打つ。
見回すと行灯の小さな灯りが、ぼんやりと見慣れた部屋を照らしていた。
まだ夜は明けていない。
「はー…ゆ、夢だったか…」顔を覆い安堵のため息を漏らした。
冷や汗で身体がべっとりと濡れていて、気持ち悪い事この上ない。
仕方ない、着替えるかと布団を抜け出そうとして気がつく。
そうだった。枕元に置いてあった湯冷ましを口にしたのだが、寝ぼけ眼でひっくり返したのか、布団と畳がしっとりと濡れていた。
…何だ。だから変な夢を見たのだな…
そう己を納得させたのだが、やけに耳に残っていたのは、あの死者達の嘲る声…
お前を逃がしはしない…
彼は不安を振り払うかのように頭を1つ振った。
家紋入りの手ぬぐいはちゃんと見つけた。
現場に忘れたとはいえ、キセルは変わり映えのしないありふれた物だし、手ぬぐいだけが自分を結ぶ糸の筈…。
そして彼は、もう1人の女の口を塞いだ時の事を脳裏に思い浮かべた…。