江戸村でござる・その弐
□お江戸物語・にわか雨
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ザア…!
ピシャン…!雨だれが跳ね、才蔵の頬を濡らす。
「…遠慮しないでもっと側に来れば?」お玉が誘ったが才蔵は首を振った。
「いや、ここで構わない」
それから2人は黙り込み、降り続く雨を見つめていた。
ザア…!
ザア…!
才蔵が空を見上げた時「…そこのお2人さん、良かったら中へ入らんかね?」嗄れた声が薄暗い店の奥からした。
振り返るといつの間にか、ちょこなんと腰が曲がった老爺が立っている。
「うっかり奥で居眠りしちまっててよ…にわか雨に気づかなかった。さ、良かったら茶でも淹れるだよ。なーに、他に誰もおらんで、気にするこたぁねぇよ。普段からあんまり客も来ねえしよ」自慢にならない事をどことなく威張って言う。
どうやら、この老爺が1人でやっているらしい。
店が埃っぽいのも分かる気がする。
「いや、せっかくだが俺は、そろそろ行くよ。ありがとな」
じゃあ、とお玉に挨拶し、雨の中をバシャバシャと才蔵は駆け出して行く。
残されたお玉は複雑な表情を浮かべ、彼の後ろ姿を見送っていた。