運命変革行進曲
□プロローグ
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蒼き龍は若くして王位につき
聡明たる気高き優秀な王となり
国はより一層豊かになる
紅き龍は国民に笑顔をもたらし
愛される皇子となろう
蒼き龍は齢85で安らかに死す
紅き龍は
齢18で 謎の死を遂げる
プロローグ
皇子と従者と長い旅
外は雨。時刻は間もなく日付が変わろうとしていた。
此処は活気溢れた豊かな国。
とは言っても、その平和が訪れたのは15年前からだったのだが。
15年前まではどの国も醜い争いを繰り広げ、どこにいても戦場と化していた。
その戦争がようやく幕を閉じ、今に至る。
それでも外はまだ危険だと言う者も少なくない。
王族は自国からしばらくは出るなと禁止命令が出されているし、同盟国以外からの外交を一切禁止されている。
戦争が終わったと言えども、見えない所ではいつ再戦が始まってもいいよう準備されていた。
また、敵国から少しでも有利になれるよう、15年前から"預言者"を集めては預言をさせていた。
王族や貴族、兵士たちのみが知る事実で、国の行く末を詠わせることはもちろん、個人的な未来まで預言させることも度々あった。
その個人的な預言をされた内の一人、リカーヤ・シャトルは、楽しそうに窓の外を眺めていた。
「なァ親友」
「何でしょう」
話しかけられた青年は、いやな予感がすると言わんばかりの顔で答える。
身なりを見る限りでは、位は高そうだがリカーヤ程立派な服は着ていなかった。
彼の名はピノ・クラウン。リカーヤの親友にして、リカーヤの側近を務める青年だった。
「絶好の脱走日和だと思わないか」
「本気で言ってるんですか、それ」
「当たり前だろう?あんな一方的な運命なんて信じられるか」
「ですが預言は絶対です。現に天気だって当たってるんですよ」
「偶然にすぎない。それに本当に預言が当たるとしても、俺様はあんな人生はまっぴらゴメンだ」
リカーヤは窓を見ながら言う。
リカーヤは以前、預言者に預言を詠われたことがあった。
その預言者には、リカーヤが18歳で死すと言われている。
そのせいか、周りからは悲観され続け、リカーヤは大事に大事に育てられた。
初めは良かったのだが、段々居苦しくもなったし、自分が何故この様に甘やかされているのか、何故時々母親が涙しているのか、不思議でならなかった。
独自で調べようにも皆はしらを切るし、預言者が詠った預言を書き記した書物は一切触れさせて貰えなかった。
それでもその事実を知ったのは、メイド達の他愛もない日常会話からぽろっと零れたのが原因だったのだが。
幸いにも知った事は誰にも気づかれていなかったが、リカーヤは己の運命に絶望した。
それでもリカーヤは、何かを思い立ったのか、仕切りに城の警備や人気のない道を調べ上げ、側近でもあり親友であるピノに相談し、今に至る。
「ようやく城から抜け出すチャンスなんだ。逃してたまるか」
「抜け出すって…駄目ですよ。ていうか、僕が居るのにそんな事言うのってどうなんですか」
「何言ってんだ。ピノも一緒に抜け出すに決まってるだろ」
「は!?な、ちょ、何言って…王様に言いつけますよ!!」
「言ったらお前をクビにしてる」
「ついて行ったら王様にクビ切られるんですが」
「どの道クビなら俺様について来い。クビにされるまで猶予が出来るぜ」
「……早々に捕まったら早々にクビなんですけど」
「心配すんなって!」
「…皇子が居なくなったらみんな心配しますし悲しみますよ」
「そうだろうな。でも俺様は不必要じゃねェか」
「不必要って…どうしてその様なことを」
「どの道俺様が死んでも、この国には大して損害も何も無い。兄上が死ぬなら、話は別だけどなァ?」
自嘲しながら言うリカーヤに、ピノは思わず黙ってしまった。
リカーヤは国の第二皇子という肩書きを持つ王族の人間。
第二皇子と言えども位は非常に高く、しかしながら第一皇子の権力には逆らえない微妙な立ち位置ではあった。
居なければ居ないで問題もない、"第二皇子"。
それを分かって、リカーヤは自嘲しなから言うのだった。
「ピノ、準備しろ。そろそろ行く」
「…皇子、やはり危険です。やめましょうよこんな事」
「ならお前は、死ぬ運命をただ待てと言うのか?」
「…そ、それは、でも預言が…」
「俺様は俺様の運命を、未来を変えてやる」
「…怖くはないのですか?」
「俺様を誰だと思ってる。第二皇子リカーヤ様だぜ?怖い物なんてねえ!」
自信たっぷりに言うリカーヤに、ピノは苦笑する。
どの道何を言ったって聞かないことを、ピノはよく知っていた。
一度決めたらとことん突き進み、揺るがない決意を固めるリカーヤ。
もはや止める術など無かった。
「分かりました。では支度をして参ります」
「ああ。では10分で戻って来い」
「かしこまりました」
リカーヤとその従者ピノ。
彼らが城を抜け出したことに気付かれたのは、
抜け出してから凡そ8時間後の事だった。