空の唄

□Hourglass of soul
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桔梗はもういない。


奈落との戦いで・・・

命を落とした。


でも・・・

私がもっとしっかりしていれば

桔梗は死ななくても済んだのかも知れない・・・




【Hourglass of soul】







「・・・犬夜叉は?」

「・・・・・・。」



かごめの問い掛けに弥勒は黙って首を振った。



「そっか・・・。」



それだけ言うとかごめはある場所に向かった。



鳥居をくぐり抜け、石段をのぼる。
しかし、かごめの足は石段を上り切る前に止まった。



「犬夜叉――・・・。」



呼んでも返事はない。

ぴくりとも動かない。


彼は今、五感の全てを閉じている。




・・・桔梗を抱いて――・・・。




「・・・・・・。」



しばらく犬夜叉の背中を見つめていたが、耐え切れなくなり、かごめは踵を返した。




あの日から何日経ったのだろうか・・・。

桔梗が天に昇ったあの夜。

みんなが悲しみに暮れ、次の日、一旦楓の村に帰ることに誰も反対しなかった。

その間も犬夜叉は一言も喋らず、桔梗の亡き骸を抱いていた。

楓の村に帰ってからもずっと桔梗が埋葬されていた祠の前で、ただ座り込んでいる。



「(何日・・・犬夜叉の顔見てないんだろう・・・?)」



石段をゆっくり下りながらかごめは思う。



「(私がもっと強ければ桔梗は死ななくて済んだのかも知れない。)」




あの時、もっと早く弓を届けていれば――

あの時、桔梗の幻に惑わされなければ――

あの時、奈落の悪意なんかに負けなければ――

あの時、もっとちゃんと瘴気を浄化出来ていれば――




かごめの小さな身体を、後悔の念が襲う。



ごめん・・・

ごめんなさい、桔梗・・・犬夜叉・・・。



いつの間にか溢れ出て来た涙を制服の袖で拭う。

後悔に押し潰されそうな中、かごめが犬夜叉のために唯一出来るのは見守ることだけだった。





* * * * *





「かごめ様、もう良いんですか?」

「かごめちゃん、もっと食べた方がいいよ。」



今日も料理に二、三回手をつけただけで箸を置いてしまったかごめに、弥勒と珊瑚が心配そうに声をかける。

しかし、かごめはやんわりと微笑んだ。



「うん・・・でも食欲なくて。それに・・・」



言いかけて、やめた。


――犬夜叉はあの日から一度も食事をとっていない――



「……ごめんなさい。」



相変わらずやんわりと笑って、かごめは外へと出た。
夕暮れ時の空にはいくつか星がちらちらと瞬いていた。

そのまま犬夜叉とよく散歩に行った丘に向かう。
村の様子が一望できるそこは犬夜叉が教えてくれた場所だった。


かごめはそこに1人でちょこんと座り、村を見下ろす。

いつもは隣にいてくれる緋色の衣は今はずっとずっと遠くにある。



「犬夜叉…」



名前を呼んでも返事が返ってくるわけでもない。
しかし、かごめは彼の名前を呟いた。

かごめにとって、今、犬夜叉が隣に居ないことよりも、犬夜叉に哀しい想いをさせてしまったことが辛くてしょうがなかった。



「(あたしがもっとしっかりしてれば犬夜叉は悲しまなくて済んだのに…。)」



考えれば考えるほど、深みに嵌っていく。
ここ数日かごめは食事もろくに摂らず、睡眠もあまりとっていない。精神的にも肉体的にも限界が来ていた。



重過ぎる後悔。

ぴしりぴしりとかごめの心は日に日にひび割れてゆく。

十五歳の少女に堪えられる筈がなかった。



そして、ある日、かごめはある考えに行き着いた。

それは、かごめの心が音を立てて壊れてしまった瞬間だった――…。
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