□貴方に微笑む。
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人間より長すぎる人生の中、幾度も幾度も見てきた。
幾年も幾年も同じ風景を、同じ名のソレを。幾度も見てきた、同じ場所、同じ物を。
同じだと思っていたのに、同じではなかった。当たり前のようで当たり前ではなかった。

だってほら、

今その風景は、





今までと全く違って見えるんだ。















【桜が見たい。】

唐突に主人がぽつりと呟いた。誰に言うでもなかったが、ちょうど目の前にいたドルチェットに呟く形になった。
季節は春だし、おかしくはない。が、別にこのご主人グリードは華を愛でる趣味があるわけでもない。
理由を聞けば、春なら桜の下で花見だろ?
と、何ともグリードらしくてドルチェットは笑った。まあ桜に注目するなんて最初だけで、すぐに花より団子。団子より酒になりそうだが。
そんなグリードにドルチェットはある場所へ案内すると言った。










ふわりと風に乗って香りが運ばれてくる。地面を見れば桃色の花びらが散らばっており、先へ歩いて行く度に増えていた。
それは目的地が近い事を告げていた。

「あれです」

ドルチェットの声に、視線を足元から正面に向けると、グリードはヒュウ♪と口笛を吹いた。
視線の先にはとても大きな桜が、花びらをヒラリヒラリと振り撒いていた。人気もなく、絶好の花見スポットだ。

「こんな良い場所あるなら、もっと早く教えろよ」

「だから今回はご主人様だけにお教えたんです」

ドルチェットがわざとらしい敬語で笑いながらそう言うと、グリードもくつくつと笑った。

「なら良し。良い場所だな」

周りに建物もなく、人気もない、静かに自然だけを楽しめる。

「此処見付けて以来俺もたまに来るんです」

「へえ」

ふわっと風が吹けば桜の花びらが舞ってヒラヒラと地に桃色の絨毯を敷いていく。

「とりあえず下見のつもりだったが、これなら酒持ってくりゃ良かったぜ」

「また来れば良いじゃないですか。少なくとも春の間はこの景色を楽しめるんですから」

「まあな」

今までも桜は何度も見て来たが、ここまで大きく立派な桜は久しぶりに見た。いや、今までで一番かもしれない。

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