□何故心は見えないのだろう。
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「はあ…」

「うざったいわね」

壁に寄り掛かってため息を吐いていたドルチェットに、客に酒を出していたマーテルが呆れて言い放った。

「あんた何回ため息吐いてんのよ」

「んなにため息なんか…」

「朝から軽く50回ははあはあはあはあ言ってるわよ」

「そんな息切れみたいに言うな!つか数えてんのか!?」

「とにかくうざったいわよさっきから!恋する乙女でもあるまいし」

そう言われドルチェットはぐぅっ!と何も言えなくなった。
何?図星?とマーテルは何とも言えない表情を向けた。

「まあ恋するのは許すけど仕事してる時はしっかりしなさいよ!」

そう言って仕事に戻るためマーテルはカウンターに向かった。ドルチェットはというと、頭をガシガシとかきながらまた一つため息をついていた。このため息は情けない自分や、お節介で口煩いマーテルに対してだが。
そして視線をソファーに座りながら両脇にいる美女の取り巻き達と楽しそうに酒を飲む主人に向けた。
愛しい愛しい片思いの相手…。それがまさか自分の主人だなんて。
一瞬だけ視線を向けてから気付かれない内に視線を店の中に変え、今度は主人の会話を聞く為耳だけをこっそり傾ける。
他の客や店の連中の騒ぐ声が聞こえる中、主人の声だけに意識を集中する。何をしてるんだと自分で思っていてもドルチェットは自制より想いに負けてしまっていた。

「え〜!本当ですか?グリードさん」

「うそ〜!」

「俺は嘘はつかねえ事にしてんだよ」

特にお前らみたいなイイ女達にはな。と美女達を抱き寄せながら耳元で囁くと、女達はキャッキャッと喜んでいた。
そのやり取りに内心ムッとしたが、会話の内容が気になるのでとりあえずそのまま聞き耳をたてた。

「ええ〜でもやっぱりビックリ。グリードさんに本命がいるなんて!」



え…?



「どんな子なんですか?もしかして、ワ、タ、シ?」

なんちゃって☆と冗談半分に取り巻きの一人がおどけると、グリードがいつもの豪快な笑い声をあげた。

「お前も気に入っちゃあいるが、悪いな本命は別だ」

「残念。で?誰なの?」

「私も聞きたい!可愛い子?美人な人?」

「いっぺんに聞くなよ」

と言いつつもひどく楽しそうに笑うグリード。その会話に聞き耳をたてていたドルチェットは内心驚愕とショックでクラクラしていた。



グリードさんに本命がいた…?自分のものを平等に想ってくれていたあの人が、唯一特別視するような存在がいる…?

いったい誰…?



知りたいけれど知りたくないという矛盾が頭の中でグルグルと回っている。でもやはり耳は主人の声を捕らえていた。

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