鋼
□刻まれ刻み込む。
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まだ日が昇りきらぬ明け方。
目を覚ましたドルチェットはまだうっすらと残る眠気に二三回瞬きをし、ふわあっと小さな欠伸をしてベッドから出ようとした、が。
ガッシ!グイッ。
とのびてきた腕が体にガッチリ回され、ベッドの中に戻された。犯人は言わずともわかっている、この部屋の主で、隣で眠っていた御主人様。
「ど〜こ行くんだよドルチェット」
「グリードさん、起きてたんですか?」
「いんや、今起きた。で?ご主人置いてどこ行く気だよ」
「どこって…そろそろ店の準備をしに行かないと」
服も着たいんで放してもらえます?と聞くと、ヤダ。と子供の我が儘のような答えが返ってきた。
しかもドルチェットの体に回された腕に力が入り、さらに強く抱きしめられる。
「まだいいだろうが。どうせ昼間は夜ほど忙しいわけじゃねえんだからよ」
「今日は俺も当番なんですよ!サボったりしたらマーテルにどやされるんスから」
「問題ねえよ。お前が怒られるだけで」
「俺がどやされるの前提なんじゃないですか!!」
駄目です!とグリードの腕を剥がし、ベッドから降りて服を着始めた。
その様子を恨めしそうに見ていたグリードはふとある事に気付きベッドから出て、ドルチェットにおぶさるように後ろから抱き着いた。
「わっ!?グリードさん!まだ着替えて…というか起きるんなら何か着て下さいよ!」
「まあまあ」
「まあまあ。じゃなくて!!…って撫で回さないで下さい!!」
まだ上を着ていない状態でグリードに密着されながら抱き着かれ、しかも変に触られてドルチェットは赤面しながら止めさせようとするがグリードはまったく止めてくれる気配は無い。
「止めて下さいって!」
「………お前、よく見たら結構残ってるんだな」
「はい?」
「古傷」
ドルチェットの背中が見えるくらいまで密着していた体を少し離した。
そしてドルチェットの背中に手を置いた。無数に残っている傷跡が目に入る。
「切り傷に銃痕、お〜火傷もあるな」
「そりゃこれでも一応元軍人でしたから怪我とか絶えませんでしたし」
「これとか結構深くバッサリいかれたみたいだな。誰に付けられた?」
「心当たりを思い出そうとしたらキリがありませんし、もう覚えてませんよ。敵に付けられたのもあるし、訓練で付いたのもあるし」
自分から聞いてきたクセに、へ〜。ほ〜。と曖昧な返事を返しながらペタペタとドルチェットの背中を触り続けるグリード。
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