鋼
□教えて下さい。
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「それどうしたのよ?」
ふとマーテルがドルチェットを指差しながら尋ねた。ドルチェットのインナーの袖口、意識して見なければ気付かない場所にちらちらと見える紫色。
ドルチェットは言われた場所を手で隠す様に押さえた。
「痣になってるじゃないの」
「どうしたんだ?」
カウンターで酒を用意していたロアも気付いて、寄って来た。
「あ〜…この間ドンパチした時に…」
確かに最近グリードに連れられてある組織とやり合った。それはもうド派手に。…が。
「あんたほとんど無傷だったでしょうが」
確かに一戦闘あったはあったが、そこは人間対ホムンクルスと合成獣。力の差がありすぎてこちらは全員ほぼ無傷で勝った。
特にドルチェットは中でも足が早く素早さを活かした戦い方をする為、そこらの人間の攻撃などたやすく避けられるし当たらない程度の実力はある。
「お、終わった後にちょっと躓いて壁に思いっきりぶつけちまったんだよ」
ちょっと無理がないか?と思える言い訳だったが、どうやらそこまでしてでもあまり痣については聞かれたくないらしい。
二人もそれを察して、それ以上聞くのは止めた。
「ま、いいけどね」
「あまり無理はするな?」
「別に日常生活に支障はねえよ」
「よく言うわ。こんなに痛そうな痣してるクセに」
と、マーテルがわざと痣のある部分を掴んでみるとドルチェットはイダダダダダッ!!と痛がった。
言う必要はない。言ったって誰もどうする事も出来ないだろう。
その夜。
既にベッドで眠りについていたドルチェットの部屋に訪問者が現れた。ノックもなく部屋に入室するとゆっくりと眠っているドルチェットに近付く。
ドルチェットは寝苦しさにハッと目を開けた。すると暗闇の中自分に上に跨がっている人影、しかしその人物の匂いとカーテンの隙間から漏れる月の光に微かに照らし出されたその顔で誰かはすぐわかった。
「よお、ドルチェット」
「グリード、さん…」
うっすらと笑みを浮かべながら自分を見下すグリードに、ドルチェットは背中に嫌な寒気を感じた。
月の光に照らし出された主人の赤い目。美しいと思う半面恐ろしく感じた。同じ主人の赤い目のはずなのに、昼間とは全くの別人のように思えた。その目の奥には怪しく狂気じみた光がギラギラしていた。
ああ、またか…。
嫌な予感がして嫌な汗が出てきた、動物本能的にも危険だと頭の中で警報が鳴り続いている。
しかしこれほど危険な状態だとわかっているのに、今の主人を前にしても抵抗はしなかった。いや、出来なかったというのが正しいか。まるで金縛りにでもあったが如く。
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