企画

揺るぎない真実
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ウソみたいに綺麗に整った神様の最高傑作は、今はそれこそ本当に作りものみたいに琥珀楡に収まっている。どんな美辞麗句だって彼女を讃えるには相応しくなくて、どれだけ言葉を尽くしたところで彼女の美貌を語るには足りない。そんな彼女はこうして見ているだけでも飽きない。

飽きないんだけど、やっぱり寂しい。

触れたいと思っても触れることが出来ないこと、どこかに一緒に行きたいと願っても一緒には行けないこと、綺麗なものを見せたいと思いついてもそれが簡単ではないこと。

こうして私が彼女をじっと見ることは出来るのに。

「なぁに人の顔見て溜息ついてんのよ、失礼ね」

不満を吐き出すように溜息をつけば、文字通り気配なくすぐ隣りから声が聞こえた。

その声さえ極上の調べで、彼女の全てはつくづく心臓に悪い。光をまとって、透けているせいでますます人間味がなくなり神々しくなった彼女は宙に浮かびながら不満げに口をとがらせて肘に手をおき、そこに顎をついた。その一挙一動全てが絵になる。

「別に……」

「………………………」

人の顔をじっと見ているのは人が悪かったかもしれない、と自覚しているだけにダイヤからの無言の圧力が痛かった。見られて困るような顔してるわけじゃないんだから少しくらいいいじゃないの、ケチとは言えない。口は彼女の方が立つ。

「綺麗だなぁって」

彼女からの視線が嫌だったから理由を言えば、ダイヤはますます顔を嫌そうに顰めた。

「それ、あの馬鹿にも言われたわ。ずっと黙ってればどうかって言いやがったわよ、あのヤロー」

思いだしてまた腹が立ったのか、ここにいないバカヤローに向かって彼女が毒づいた。あの馬鹿が誰を指しているのかは名前を言われなくても分かる。彼にも会ってきたのか。

「私は、ダイヤがずっと黙ったままなのはもう嫌だなぁ」

ポツリ、と自分の落とした言葉がやけに響いた。
顔を綺麗に顰めていたダイヤが瞳をぱちくりとさせて見てくる。

「皆は、オニキス達がしたことを勝手にしたって凄く怒ってるけど、私は感謝してるんだ。たとえ対価になったのが、3人のかけがえのない記憶で、3人が覚えてる2人の記憶だったとしても、それでも今こうしてダイヤと話せるようになったことに凄く感謝してる」

寂しかった、本当に。
話しかけても何も言わない彼女に語りかけるのは。

表情豊かな顔が穏やかそうに微笑まれてまるで動かないのが。

生きているはずなのにまるで死んでいるかのように静かにこの琥珀楡にいるダイヤを見るのは。

「だって、思い出と同じくらいこれからの未来も大切でしょ?その時をダイヤ達だけ刻めないなんて、ダイヤ達と一緒に過ごせないなんて、そんなの嫌だったの」

やっと言葉が届くようになったから、今まで一方的にしか言えなかった不満をやっと伝えられる。

「ダイヤ達はオニキス達に怒るけど、ダイヤ達だって勝手だよ。私に何も言わずに琥珀楡の中に入ること決めちゃって、しばらく会えないって挨拶だって残してくれなくて、ちょっと前に会った時は普通に別れたのに次会った時は何にも言わない状態になってたんだよ。その時の私の気持ち、考えてよ。馬鹿……」

彼女たちがしたことは世界を救う素晴らしい行為だって分かってる。今更こんなことを言ったってどうにもならないことは分かってる。ただ彼女を困らせるだけだって分かってる。

ただ悔しかっただけなのだ。大事な親友がとんでもない決断をしたときに傍にいれなかったことが。今も彼女の支えになれないことが。自分が不甲斐なくて、それを彼女に当たっているだけなのだと気づいているのに言葉が止まらなくて、最後の罵声は力なく涙に溶けていった。

宙に浮いた彼女は相変わらずぽかんとした顔をしていて分かっているのか分かっていないのか分からない。しかししばらく睨みつけているとガシガシと乱暴に髪をかいて「あ〜」と唸った。

「身体が実体化してりゃね、アンタを抱きしめてあげれたのに」

目の前にふわりとダイヤがやってきたけれど、身体の気配はやはり感じられなかった。

「ごめん」

真摯に謝ってる彼女は頭を下げて、真剣に目を見てくれた。
その言葉があるだけでいい。今は触れることができなくても目の前にいて、話してくれるだけでいい。

1人で琥珀楡の前にいるとダイヤが生きていたことの方が夢だったんじゃないかなんて馬鹿なことを思ってしまうけれど、今、こうして彼女と過ごせるだけで安心できた。











((彼女が今この世界にあるということ))

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