星屑は凛として

□好きだって言えない
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「ザギ!」

「うっ!?」

「答えろって」

「は、……え?」

力を込めて掴まれた両肩が痛い。ユーリの顔が近い。真剣な眼差しで見つめられ、質問の内容なんて吹っ飛んでいた。


――好きだって言えない


「だから、俺のことが好きかどうか!」

「何で、そんなこと」

「嫌いなのか?」

「そんな訳」

熱い熱い。身体中の熱が頬に集まっているような気がした。嫌いなはずがないだろう。お前なんか、好きに決まってる。それぐらいわかっていると思っていた。大体、好きでもない奴と、あああんなことするかよ。

「ザギ」

「今更だろうが」

「今更だけど!言ってほしいんだよ」

「めんどくせえ奴だな!俺はお前がすっ…」

「す?」

「お前、が…」

なんだ、どうして、出ない!

「俺が、何?」

俯いても覗き込んでくるその目からどうしても逃げたくて、俺は瞼をぎゅっと閉じた。

「す……、」

自分のもどかしさに苛々する。ただ一文字加えればいいだけなのに。できない。言えない。
違う、きっと俺以上にユーリは苛々している。このまま言うことができなかったら、ユーリは俺のことを嫌いになるのだろうか。もしかしたらもう女がいて、これは最終確認で。置いていかれる。俺はまた、独りになるんじゃないのか。そんなのは、嫌だ。

「っ……」

「ザギ?」

「黙れ…」

くそ恥ずかしい。歯を食いしばると、涙が落ちていった。細めた目から次々と溢れる。止まらない。悔しい、悔しい。ユーリを前にすると、変わってしまう自分とか、こんなことすら出来ない自分とか。ユーリを不安にさせている自分も。

「……もう、いい」

「!」

そして最後に写ったのは、眉を下げて笑うユーリの顔だった。



「待てっ!」

叫んだ途端、俺はベッドから起き上がった状態になっていて。行き場の無い手がただ空を掴む。

「?」

何処だ。そうだ、さっきは夜で、俺はベッドに横になった。そこで瞼を閉じた。ということは、今のは夢か?ユーリは?

「ユーリ」

重い頭を左右に振ると、もうひとつあるベッドの上にこんもりとした布団が見えた。

「……」

そのベッドに片膝を乗せ思い切り布団を剥ぎ取る。

「おふっ」

腑抜けた声と共に黒髪の束が舞い上がった。予想通りの人間がいて、心臓が僅かに跳ねた。

「起きろユーリ!」

「うわ!」

突っ伏しているそいつの肩を掴んで反対方向へ引き怒鳴りつけると、目を見開いて覚醒した。少しは嬉しがったりしないのか。俺だけか、こんなことを考えるのは。

そして俺は手の力を強めて、


「好きだ!」


と言い放ったのだ。

「あ、ありがとうござーす…」

「……?」

すんなりと聞こえた自分の声に驚き口元に手をあてた。なんだ、言えるじゃないか。訳がわからないくらい簡単に。首を傾げるユーリの視線に気づき睨みつける。

「お前は、どうなんだよ」

「好きだよ」

「何でそう簡単に言えんだよ!」

へらっと笑う顔面に奪い取った枕を振り下ろす。くそ、なんの躊躇いもないのはまあ嬉しいがそれ以上に悔しい。

「おっと!」

俺の打撃は片腕で受け止め横に流される。俺はバランスを崩してユーリの上に倒れ込んだ。ふわりと上がったユーリの手が目の前に現れた。

「……っ」

起き上がろうにも既にユーリの腕が回され背中を押してきて動けない。指先が頬の輪郭をなぞって顎に到達。たちまち何をされるか想像が出来て顔が熱くなる。

「好きだよザギ」

「うる、せえ」

「なんで悔しがってんだ?」

「別に」

「ザギ」

そもそもユーリはこういう奴なのだ。俺が酷く依存してしまったから、物足りないと思ったから、あんな夢まで見てしまう。

しかし実際のところはただ触れられただけで訳が分からなくなるのだから、これで十分ということだ。

耳を甘噛みされ身を捩ると、静かに唇が重なった。



End.


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