other
□溶けかけアスパルテーム
1ページ/1ページ
「ウォーカー」
「アップルパイ」
「重いです」
「ミルフィーユ」
「どいてください」
「チョコマフィン」
「邪魔です」
「パンプキンパイー」
「…ウォーカー」
「リンク」
リンクの背中が温まっていく。肩に置いた顎が痛くなってきたから、頬を押し付けた。微かに漂う甘い香りが食欲をそそる。
「仕事をさせてください」
「それ僕の監視でしょ」
「今は必要ありません」
「その紙がそんなに大事ですか」
「はい。大事な書類です」
僕に見向きもしないで。事務的な返事で。悔しい。
「リンク、死ぬかも」
「簡単に死ぬなんて言葉使わないでください」
「…すみません」
「……」
注意されてうなだれる。心がざわついて小さく呟く。
初めて会った時はずっと見ていたくせに。僕の一挙手一投足、眉間にしわを寄せて観察していたのに。僕がもう何もしないとでも思っているのか。それはきっと信用しているからではなくて。
「構ってください」
「子供ですか」
「僕のこと全部わかったんですか?」
「いいえ」
「嘘だ。わかってるって思ってますね」
「全くわかりません」
「だったらちゃんと監視しろ」
「どうしたんです」
「どうもしてない」
「……」
「……」
少し心配されて嬉しい。そんなことない。今のは馬鹿にされたんだ。離れないで。こんなくだらないところで。リンク。
羽ペンがさらさらと滑る。滑るまま、彼が口を開いた。
「作りにいきますか?」
「ほんとですか!?」
思わず身を乗り出して横顔を見た。暫く書類を見ていた瞳がやっとこちらを向く。
「とりあえず離れていただけますか」
「……」
ずどんとでも言うような。ふわふわしていた心が鉛のように重くなって、視線を外した。
ここは反抗します。だって君はまたペンを動かすのでしょう。僕の言葉になんて耳を貸さずに。瞳はもう手元を見てる。
「ウォーカー」
丁寧に羽ペンが置かれた。金髪が流れる背中が動く。
再び沸き上がる期待を抑えほんの少し後ろに下がると、突然手首を掴まれた。
「リン、ク?」
何も応えず、顔が近づき、反射的に瞼をぎゅっと閉じる。唇を噛み締めた。頬が熱い。手首も熱い。頭の中がリンクの声でいっぱいになる。ばくばくと響く心音と、布擦れの音と、リンクの髪が触れる感覚、そして。
「……」
「わ」
頬を唇が掠めた。
ただでさえ熱いのにこれ以上は。恥ずかしい。なぜだかリンクの顔が滲む。くすぐったさで涙に気づいた。
「どうして泣くんです」
「だっ…違います!」
小首を傾げて覗き込まれ俯いた。今だ掴まれたままの手が視界に入った途端にリンクの手は離れていった。
「あと一時間で終わらせます」
「今ので一時間分?」
「……」
「ちょ、黙らないでください!」
「…さて」
「仕事モードに入るなぁ!」
「うるさい」
ちゅ。
End.