てのひら稲妻町2

□火を捧ぐ
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「風丸はずっと俺の隣にいたんだ。初めて助けに来てくれた奴なんだ。簡単に戦うなんて言うな!!」

円堂に襟首を掴まれ怒鳴られた。円堂が俺に対してここまで激昂する姿を見るのは今までになくてどれだけ彼を信頼しているのかを突き付けられるようだったが、しかし現状、風丸や他の仲間達がエイリア学園に寝返ったことに変わりはなかった。

「これは助ける為の戦いだ。話し合いで解決しなかったのは、お前が一番理解しているだろう」

ぎらぎらと今にも噛み付きそうな目で俺を睨む円堂に努めて冷静に言葉を返すと、円堂は俺を突き放して顔を背けた。これ以上何を言っても円堂の神経を逆撫でするだけだろう。お互い何も言えないまま何秒か過ぎて、俺は円堂の元を離れイナズマキャラバンに戻った。

それから円堂と明らかに距離が出来てしまって、分かりやすい程練習に影響が出た。簡単なパスもまともに受け止められなかった時はチームメイトに本気で心配されてしまい、焦りながら円堂を見やるとこちらを見ていたのだがすぐに視線を逸らされる。完全に円堂の地雷を踏んでしまったのだと、意見をひっくり返す気にはならないまでも後悔して自分にため息をつきたくなった。

俺は進んでサッカー部に入った訳ではない。転校する前まで円堂とは会ったこともない。それでいて円堂に一番近いのは俺だといつの間にか過信していた。周りと円堂との接点に対して特に知ることもなかったので、円堂と風丸との「ずっと」という時間に心の中がざわりとすればどうしても振り切れないでいる。

真夜中に目が醒めてしまい静かにキャラバンを出て周囲をランニングした。走っていると気分は落ち着く。大きく一周して戻ってくるとキャラバンの横に人影が見えた。月明かりで円堂だと分かった。俺が起こしてしまったのだろうか。少し緊張しながら歩いていくと、俺の姿を見た円堂が目を見開いてこちらへ駆け寄ってきた。

「豪炎寺…っ!」

久しぶりに名前を呼ばれたなどとごちている暇はなく、円堂は涙目で声まで震えているので思わず肩を掴み顔を覗き込んだ。

「どうした?誰か来たのか?」

もしかしたらエイリアの者が、或いは風丸本人が来たのかもしれないと周囲を見回すが、他に誰もいない。すると円堂は違うんだと言いながら俺の手をやんわりと離していった。

「起きたらお前がいなかったから、お前まで、エイリアに行ったんじゃないかって」

「……」

「疑ってごめん」

一度しか触れなかった手に違和感を覚え、俯く円堂を見つめる。風丸の話をしたもっと前からだろう、円堂は痩せていた。確信してすぐにどうして気付いてやれなかったんだろうと思うくらい、うっすらと出来た目の隈だったり、赤みが消えた頬に目が止まって、無意識に握り締めていた拳に更に力が籠った。

「それは、いい。円堂……いつから溜め込むようになったんだ」

「何を?」

「ちゃんと眠れていないんじゃないか?」

「寝てるさ、ほら、居眠りするくらいだもんな」

咄嗟に声を荒げそうになって口を閉ざす。これではまた前回のようになってしまうし、今の円堂はどこかおかしい。

「豪炎寺は走ってたのか?頑張ってるな」

俺との喧嘩のせいなんかじゃない。裏切られ続けて一番辛いのは円堂の筈なのに、皆を鼓舞するために毎日声を張り上げて。

キャラバンを停めている駐車場からすぐ傍の路地裏に円堂を引き込んだ。今だけでも取り繕わない本心が聞きたかったし、その姿を他の仲間に見せたくなかった。

「どうしたんだよ豪炎寺、さっきから変だぞ」

円堂と正面から向き合うともう円堂は涙を引っ込めていた。我慢することに慣れてしまっている。

「俺はもうこのチームから離れない」

「風丸達を助ける」

「今度こそ、円堂を支えるよ」

「……」

「寄り掛かったっていいから」

まるで一人で戦っているようだった。俺や他の皆は円堂という絶対的な存在にいつも助けられている。だけど円堂には、円堂しかいない。士気を高めるだけじゃなくて、時間の無い中でエイリアに負けない為の、皆を引っ張って行く為の力を無理矢理にでも身に付けようと努力している。俺なんかが語ったところでたかが知れているだろう。けれどおそらくこの先もさらけ出す事は無いであろう影の部分を俺には吐き出して欲しかった。

「お前、だって俺……この前ひどいこと言ったのに」

「一人で考えて込まれるよりはよっぽどいい」

円堂の瞳が一瞬揺らぐ。本来なら庇うべきは円堂自身だったのだ。これ以上円堂が抱え込まないように、円堂が俺の居場所であったように、俺も円堂の居場所になりたい。辛いなら辛いと言えるように、泣きたいなら思い切り泣けるように。

「嫌な態度とって、ごめんな」

「いや、俺も悪かった」

「風丸達のこと諦めないでいてくれて嬉しいよ」

「当たり前だ」

「頼もしいな」

とん、円堂が笑いながら俺の胸を叩く。それはいつだってこっちの台詞なんだけどな。俺は円堂の頭をくしゃくしゃと撫でて、額を合わせた。目を閉じると小さな嗚咽と共にありがとうと聞こえて、その夜はずっと二人でいた。

end.

豪→→円

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