てのひら稲妻町2

□俺が×××をやめた日
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サッカーは暴力の道具じゃない。顔とかお腹とか時には背中をゴールポストに叩きつけられた。宇宙人がサッカーを使って攻めてきたので、他の部や学校外の人に苛められる。

みんなで楽しくサッカーがしたい。

「守、また殴られたの?」

今日も頭をぼーっとさせながらキャラバンへの道を戻っていた。暗がりでも赤い色の髪はよく目立った。

「ヒロト」

敵のキャプテンであり友達のヒロト。俺が一人でいるとふらりと現れる。お前の組織が来てから俺の身体が痣だらけだ。殴る奴等だって痛いだろうに。タイミングが重なりヒロトに対して苛立ったが、ヒロトが泣きそうな顔をするせいで霞んで、意味が分からなくなる。

「話そう。守」

「い…いやだ」

「そんなこと言わないでよ」

ヒロトの手が俺の頭を撫でる。目が合えば逆らう気が失せてしまうんだ。分かっているくせに。俺はヒロトに連れられて暗がりの中に入り込んだ。

「もう、耐えられないだろ?」

ヒロトの方が苦しそうじゃないか。



「こんなに傷付いていたんだね…」

「もういいだろ」

たくし上げていたユニフォームを戻すとヒロトの手が頭を撫でるので、反射的に手を挙げて振り払った。

「オレは殴ったりしないよ」

そう言って微笑みながら俺を見つめる。どうしてお前は仲間じゃないんだろう。どうして俺とお前は戦っているんだろう。

「そんなの、わからないさ」

こつ、とヒロトの肩に額をぶつけた。お前が雷門の生徒なら。サッカー部員なら。今ここに、同じチームの一員としていてくれたならどんなに。

「大丈夫だよ」

ヒロトが両手を回して俺を抱き締めた。敵なのに全然怖くなかった。

「あたたかい」

「俺は寒いよ」

俺がそう言うとヒロトの腕の力が強くなって、二人の隙間が無くなっていく。

「なんで、」

「どうして」

俺と同時に口を開いたヒロト。顔を見るといつもの笑顔が無かったから、どうした?と続きを促した。

「っ、どうして守は、オレのところに来てくれないの」

俺に向けて言っているはずなのに独り言のように聞こえた。それは俺がどこか他人事で、ただヒロトの表情を焼き付けていたからだった。外は寒かった。夜は暗くて普段の常識とかがふわっと飛んでいきそうだった。

「なんでヒロトは敵なんだ」

ヒロトが目を見開く。お前がグランだって知った時と同じだ。驚いているのは、傷付いているのは俺なのに。

「裏切るなんて、出来ないよ」

「俺も出来ない」

「守……」

また抱き寄せようとするヒロトから身体を離す。出来ないのなら、お前も、加害者だ。

「好きだよ」

「グランを捨てられないくせにヒロトぶるな!」

「え…?」

「俺だって……俺の、好きな人は…っ、サッカーを楽しんでて、優しく笑ってくれる奴で」

日本がとか、そんなものじゃない。空き地で日が暮れるまでボールを蹴って笑い合うような。

「グランなんか嫌いだ。ヒロトを返せよ。ヒロトになってくれよ。もう……こんなの、いやだ」

腰が抜けてしまい地面に座り込んだ。先程出来た痣の場所が痛い。まとまらないまま喋ってしまって何を言っているのか分からない。もうこちらを見る人物がヒロトには思えなかったのだ。

「オレは……。オレはグランだよ。そんなに気に入ったのかい?」

「ヒロト」

「争うのはやめよう?守が一緒に来てくれるなら、ヒロトでいるから」

「触るなっ」

「好きなんだ」

同じように地面に座り、朗らかな笑顔を向けるグラン。もがくのを気にせず髪を撫でて額にキスをしてくる。

「!?」

「本気で言ってるの分かってなかった?」

「エイリア学園なんか無くなればいい」

「駄目だよ。大切な居場所なんだ」



真上にある太陽が眩しくてバンダナを下ろそうとすると、手首を掴まれ大きな影が出来た。

「結果が出たよ」

「結果?」

眠気を我慢しながら上体を起こすと、何故か後ろに座ったヒロトがお腹に手を回して身体を預けてくる。

「エイリア石との適合実験。文句なしの満点合格さ」

「さらっと言うなあ」

「守」

今日は珍しく晴れた日だった。雲が少なく青空が広がっている。腕を広げてそのまま後ろに倒れると、うぐ、と変な声が聞こえた。

「ヒロトといたくて来たんだからな。試合には出たくない」

「したくなった時が来たら歓迎するよ」

「ヒロト」

ヒロトと勉強をして、共に生活をしている。エイリア学園にいるみんな以外の人とは会っていない。身体の向きを変えてヒロトと向き合うと、ヒロトは小首を傾げた。

「なんだい?」

「好きだ」

「!」

恥ずかしくて笑うと、ヒロトは反則だあと喚き始めたので耳を塞ぎながら隣に寝転がった。

エイリア石に興味は無い。エイリア学園は嫌いだ。だけど学園にいるみんなは好きになったし、何よりヒロトと仲間でいられる。ヒロトと一緒にいられる。



サッカーが無くなっていたことなんて気づかなかった。

end.

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