novel room--long--

□話の分かれ目
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が。おかしなことになった。
目の前には木造の大きな家が建っている。振り返るとさっき一線の先に見えた高層ビル群は消え、ありきたりな
空き地がみえる。
「ここ、どこ?」
私の家では決して、ない。この建物だって見覚えもない。
「どこ?」
不思議と不安はなかった。場所が変わったことに疑問もなかったし、戻りたいとも思わなかった。
ただ、ここはどこか知りたかった。

「洋子!」
そう言われて強く肩を叩かれた。振り向いて顔を見る。
背は低めでほっそりしている。デニムのロングスカートに青や緑といったようなグラデーション模様にプリントされた皮のサンダル、少しだけ袖のある、シルバーとゴールドのスパンコールが裾に縫い付けられている深緑のTシャツを着ている。髪は黒くて長く、腰の位置で一直線に切りそろえられている。童顔のようだから年はよく分からないが、薄っすらとした化粧の下にはまだふっくらした丸みが残っている。
「ここがそんなに懐かしい?」
顔を目の前の家に向け、目を瞑り懐かしそうに言った。
「そうだよね、ここを出たのって洋子が1歳のときだもんね。そう思うと洋子、大きくなったよね。
 私が20だから・・・もう、18でしょ。信じられないよ。」
女性はこちらを振り向いて、子供を見るような目で私を見た。
「さ、そろそろ帰ろっか!愛しのダーリンが家でまってるぞ。」
笑顔でその女性は私の手を引いた。二重の大きな目が細い三日月線を描く。
「・・・待って」
ようやく、私の口が開いた。
「18?洋子?誰の話?」
「・・・?何が?」
女性はきょとんとした顔をしている。
「ほら、わけのわからない顔してないで。行こ。」
「待って!」
再び引かれた腕を振りほどく。どうしてもこのまま連れて行かれてはいけないと思ったのだ。
女性は眉間に深い皺をよせた。二重がさらにくっきりとなる。
「何?」
少しきつい口調に一瞬言葉が詰まる。
「あ・・・私、あなたの知っている人じゃないわ。だって、私の名前は『晶子』だし、27歳だし、ダーリンなんていないもの、私は崖にいたはずで、だからここはどこか知らなくて、あなたは誰って感じだし。・・・何で私、こんな所にいるの・・・」
最後には何が言いたいのか分からなくなった。
一通り一気に話した後、急に居たたまれなくなって私は泣いてしまった。
女性はしばらく黙っていた。ただ腕につけていた見ず知らずの腕時計の音だけが耳に入ってくるばかりだった。
泣き止んでから私は女性の顔を見た。すると、
「きっと、混乱しているのね。あいつの暴力を思い出してしまったのね。」
と女性はいい、優しく私を抱擁した。私はその中でじっとしていた。
背の割に腕の長い人だなと思いながら。
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