C l a p

□運命が奏でるメロディ
1ページ/2ページ





運命が奏でるメロディ




放課後、俺は音楽室で愛用の楽器を弾いて居た。
誰も居ない静かな校舎に響く独特のメロディ。


「…やっぱり、此所に居たってばょ。」


楽器を弾く手を止めて振り返ると英語の渦槙成斗先生が居た。
渦槙先生はイギリス育ちのハーフ。
子供の頃音楽を習って居て俺の演奏を評価してくれる、習い事の先生よりもずっと良い俺の先生。


「2年前と比べて更に良くなってる。やっぱり鎖介は才能あるってばょ。」

「ありがとうございます。」


照れて笑うと、先生も笑った。


「明後日コンクールなんだろ?絶対優勝だってばね。期待してる。俺だけじゃなくて他の先生も皆。 大学もやっぱ音楽系の方に行くんだろ?」

「ハイ、コイツと一緒に。」


俺は手に持って居たバイオリンを見せた。
此は今は天国に居る母さんに貰った、子供の頃から愛用して居る俺の世界でたった一つの宝物。
母さんの奏でるバイオリンは凄く好きだった。


「母さんが最後に弾いてくれた曲、大好きだった…。だから俺はずっとその曲でコンクールに出てるんです。後の2曲は別のだけど、最後だけは此で。だけど母さんには程遠くて……。先生にも聴かせてあげたい。」

「お前の母ちゃん、実は俺知ってるってばょ。笑」

「え……?」

「『内波美琴』。俺の母ちゃんの親友。多分サスケも知ってるんじゃないかな?『渦槙來思菜』、バイオリスト。」

「母さんと並ぶ『華の琴姫』…。」

「そうそう!良く知ってんなー!!笑」


俺は滅茶苦茶驚いた。
バイオリストなら誰もが知って居る『琴姫』。
母さんは來思菜さんが小学校時代からの幼馴染みだと言って居た。
家に来た事も何度もある。


「俺お前が小学生の頃バスケで忙しくてさ。8歳も離れてるしな。けど俺が小学生の頃は美琴さんが家に何時も鎖介連れて来てバイオリン弾いてたってばょ。美琴さんの好きなショパンの『別れの曲』。アレ練習曲だけど良いょな。」


俺の一番好きな曲…。
唐突に弾きたくなってバイオリンを構えた。
静かな優しいメロディが流れる。


「…先生、今日誕生日なんだろ?」

「え、何で知ってんだってばょ?」

「來思菜さんがこの時期になると母さんに言ってた。『今年は何してあげようかな?』…って。俺も一緒に考えてた。來思菜さん、先生の好きなモノ沢山母さんに教えてた。先生の性格とか全部。母さんと一緒に話してて……、俺は母さんの知ってる『金色の天使』にずっと会いたかった。」


其処迄言葉を並べると、演奏を止めた。
渦槙先生を真っ直ぐ見つめる。
先生も俺を見つめて居た。


「まさかとは思ってたけど、本当にそうだったなんて…。やっと会えた。金色の天使。」

「天使とか言うなってばょ、恥ずかしいってば。///」


照れて紅く頬を染めた先生に触れる。
金の綺麗な柔らかい髪を撫でると、「成程な」と思った。
母さん達が言っていた通り、天使だった。
俺は知らずに出会って、金色の天使に惹かれた。
こう言う事を『運命』と言うのだろうか。


「好きです、先生。逢えて良かった…金色の天使。」


俺より少し低い位置にある紅い唇を親指で一度撫でて口付けた。
軽く重ねただけで伝わる熱を持った唇を一つ啄んで唇を放す。
渦槙先生は唇を抑えて真っ赤になって居た。
そんな先生にニコリと微笑む。


「俺、先生の為にショパン弾いて来ます。優勝するから、明後日のコンクール絶対来て下さいね!笑」


そう言って俺は荷物とバイオリンを持つと音楽室を後にした。
廊下を駆ける俺の頬に秋の少し冷たい風が当たる。
心地良かった。
全身が金色の天使のお陰で熱かったから……




―end――…





 
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ