クロウ×女主


イスズは男恐怖症。
さらに脳が恐怖心で相手を認識するのを拒絶するせいか、人間の『個』を現すのに最も重要な『名前』を記憶する事が極端に出来ない。
これは過去のトラウマの為で仕方がないとクロウは割り切っている。
まぁ、自分は地道に会話を続け、第三者が立ち会う中でも敵意がないと示すように何度も笑顔を見せた。
結果イスズはクロウに良く笑顔を見せてくれる。
ここまでは良かった。
そう、良かったのだが…


「イスズ。」


「ヒッ!!」


「………」


「…あ、ぁ…
…ご、ごめんなさいっ…!」


少し声をかけるとこの怯えよう。
あれ、ちょっと待て。
ついこの間まで隣に座ってもへにゃ、と可愛らしい笑顔を見せてくれたではないか。
それなのになんだこの怯えようは。
理解できないクロウは必死に自分の記憶の糸を辿った。


「イスズ。」


「…あ、アキちゃん…」


「今からフィーネとケーキ屋に行くの。
貴方も来るでしょう?」


「うん!
…あ、バイバイ、クロウ…!」


「…………おう。」



ここぞとばかり、救世主のごとく現れたアキにイスズは慌てた様子で去ってしまう。
一応振り返って挨拶はしてくれたがクロウの疑問は消えなかった。
アキはイスズの頭を撫でて落ち着かせているようで、その横顔は面倒見のいい姉のものだ。
なんだ。
あれではまるで自分がイスズに怖い思いをさせて、姉ポジションであるアキがイスズを慰めているみたいではないか。
納得できない現実にクロウは一気に腹が立った。
しかし、良くも悪くも純粋なイスズがあれほど怯えるには必ず理由がある。
その原因が自分なのか、それとも自分が居ない間にまた男に酷い目に遭わされてトラウマを抉られたのか…
もし前者なら良いのだが(いや、良くないが)、後者なら迷わずその男を血祭りに上げよう。
自分でも気づかない程険しい表情を浮かべているクロウは拳を強く握りしめた。


「ジャック、遊星…
クロウはいい加減イスズのcheek(頬)が赤い事に気付くべきだろ。」


「ふん。
今のクロウではしばらく無理だろう。」


「あぁ。
無理だな。」


無論、この会話はクロウに聞こえていない。


END

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