長編2

□闇に消えた細氷
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ロイは、今年初めての夜会の準備に手間取りながら、ふと、今日のエドワードとの会話を思い出した。

自分に逆らうばかりの、自我ばかりの強い、金色の少女の棘のある言葉。
決して譲らない芯の強い心根。
揺らがない、真っ直ぐに向けられた視線。

全くもって貴族らしい匂いのしない、小さな少女。

ロイの知る貴族の女で一番近しい存在である、母親の若かりし頃とエドワードを比較して、その顕著な違いに、無意識に眉を顰めた。


「遣り辛いガキだ…」


昔から、女の――否、他人の心理は全て、手に取るように分かった。

貴族として生まれてきたのだ。
権力争いと欲に塗れた、人の足を引っ張る事ばかりに長けた者達の中で生きてきたロイは、人の心理を読む能力に長けていた。

特に幼い頃から、整った容貌の為に自分を取り巻いていた女達の心は、容易に推し量る事が出来た。

しかし、それなのに、エドワードの心だけが分からない。

母親とも、他のどの貴族の女とも違う精神構造をしているらしいエドワードは、ロイの常識で測る事の出来ない、唯一の女だった。

今日、彼女がほんの一瞬だけ見せた、どこか悲哀の滲んだ瞳は、何故かロイの心を抉った。

まるで膿んだ傷口にナイフを突き立てているような、そんな気持ちにさえなった。


「エドワード・エルリック…」


本当に13歳かと疑いたくなる程の、精神と知識量を擁する少女。

大人にすら難解な書物をベッドの下に粗雑に突っ込んで、
愛しい恋人に対するような優しい瞳で、本を熱く見つめるおかしな女の子。

貴族らしくない、国切っての名門の、公爵令嬢。

纏う空気に強さと弱さを併せ持つ、他人の心を揺さぶる娘。


「だが、所詮は…」


ロイは闇色の瞳を細めて、吐き捨てた。
所詮、彼女も――同じなのだ。

同じ筈なのだ――。



終.
 

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