長編2
□夢にまで見た
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エドワードは、社交期に館外へと抜け出そうと決めた直後に、
こっそりと持ち出した道具でエドワードだけしか通れないような小さな穴を、マスタング邸を囲う柵にあけていた。
ロイが夜会に行った隙に、その、樹木に阻まれ人目に付かない穴から外へと抜け出すと、町へと繰り出した。
途中森の中で、今まで箪笥の中に隠してきた簡素な服に着替えて、
脱ぎ捨てた豪奢な服を木の下に隠すと、真っ直ぐに目的地であるホーエンハイム家へと向かう。
森の中を突き抜けると、意外とすぐに、見慣れた風景が飛び込んできた。
思い出を噛み締めるようにゆっくりと、歩を進める。それでも、すぐに目的地へと到着した。
かの家は相変わらず、大衆向けではない、小ぢんまりとした経営で書店を営んでいるようだった。
知る人ぞ知る、その目立たない書店が目に付いた途端、エドワードは目を輝かせた。
「アル!」
家と一体になっている書店の前で、大事な弟分のアルフォンスが座り込んでいたからだ。
エドワードは喜色でいっぱいの瞳を輝かせて、彼の元に駆け寄った。
アルフォンスはエドワードの姿を目にすると、驚愕したように目を見開いた。
「姉さん…?」
きょとんと、子供っぽい表情で驚愕の相を表して首を傾げるアルフォンスに、エドワードは力強く頷いた。
そのまま抱き付こうとするかのごとく、満面の笑みを浮かべて、
両手を広げて駆けてくるエドワードに、アルフォンスはぱっと輝かんばかりの笑みを浮かべた。
と思ったら、突然般若のような恐ろしい形相に切り替わって、
「突然音信不通になったと思ったら、なに何事も無かったみたいに出てきてんだ、馬鹿姉ェェエエエ!!!!!」
エドワードはアルフォンスの繰り出した拳を避ける事が出来ず、勢いそのままぶっ飛ばされて、こてんと地面に転がった。
本気の殴打に走った痛みに、エドワードはぐらりと意識が閉じる独特の感覚を覚え、
何故こんな事になったんだっけと考えて、息をつめた。
(そういや、突然だったから、アル達に婚約の事とか言ってなかったな…)
霞む意識の中、最後にそんな事を思って、エドワードは意識を失った。