長編2

□キライスキキライ
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悠然とした微笑を浮かべたエドワードを思い出して、ロイは溜息を吐いた。

もうすぐ夜会に出掛ける時間なのだが、昨日のように、エドワードの様子が思い浮かんで支度に身が入らない。

エドワードという少女は、ロイの知っている貴族の令嬢とは、
どうにも毛色が異なっており、貴族の娘など皆同じだという認識を持っていたロイには、扱い辛い事この上ない存在だった。

他の令嬢なら喜ぶ言葉や態度には正反対の反応を示すし、大人ですら気が付かない隠れた悪意にも、容易に気が付いてしまう。

今朝見た微笑も、普段見る貴族の女の笑みとは全く異なっていた。
雄々しさや猛々しささえ感じられる、力強い微笑だった。

金色の瞳には、普段令嬢達がロイに向ける、清楚ぶった表情に似つかわしくない艶めいた色も欲望も、何も映っていなかった。

反抗心剥き出しの、強気な子供の瞳。その奥に宿る焔。

貴族らしからぬ厄介そうな気質を持ち合わせているらしい子供は、勝気な瞳で射殺すように、真っ直ぐにロイを見つめてくる。

一体どのような巡り合わせの元、あんな突然変異が生まれるのか。


「あのこどもは…」


欲望の無い瞳は、幼い故の無垢さだと、片付けようと思えば片付けられる。
しかしそれにしたって、親や夫など、
上位なる者には逆らわないように教育されている筈の貴族の出自の娘が、
将来の夫にあんなにも敵意剥き出しの瞳を向けるだろうか。

子供ならば尚更、大人には怯み、遠慮を見せる筈だ。


「何なんだ、あの…」


力強い意志を感じさせた、微笑。
きらきらとした、無駄に生命力に溢れた瞳。全くもって貴族らしくない。
子供らしさも感じられず、しかし大人の匂いもまるでない、おかしなこども。

理解出来ない存在に、腹が立つ。苛立たしい。

それなのに、あの微笑を向けられた一瞬、ロイは息を呑んだのだ。

(あの性質と、あの瞳は、好ましいかもしれないな…)

金色の瞳に溢れる光は、見た事も無い色を宿していて、嫌いでは無かった。



終.
 

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