長編2

□形に出来ない
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やって来るなり、真っ直ぐに書店に向かい、
迷う事無く数冊の本を選出したエドワードを目にしたアルフォンスは、彼女の手の中にある書物を覗き込んで首を傾げた。

エドワードは論理の構築や計算などを必要とする書物を好んで読む傾向があった為、
彼女の書物の好みを把握しているアルフォンスとしては不可思議この上無い選択だったのだ。


「珍しいね、姉さんがそんな本読むなんて」


今まで見向きもしなかった心理学や行動科学、行動心理に関する書物を読み漁るエドワードに、アルフォンスは思わずそう零す。
しかし、本を開いてほんの少ししか経過していないのにもうアルフォンスの声が届いていないらしい彼女は、本から一切視線を離さない。

金色の瞳は文字を行き来するばかりで、唇はぶつぶつと小さな呟きを洩らすのみだ。
それすらも、書物の中に展開されている理論を唱えているに過ぎず、アルフォンスの声に応えた訳では無い。

(相変わらず凄い集中力だな)

感心しないでもないが、
社交期というほんの限られた時間しか会えないというにも関わらず自分を無視するエドワードに、アルフォンスは拗ねたように唇を尖らせた。


「こらっ、姉さん!」


ちょっとだけ憤慨した声を上げてエドワードから書物を取り上げれば、エドワードははっと我に返って、アルフォンスをおずおずと見上げた。


「な、何…?もしかして何か言ってた…?」


困惑に揺れるエドワードの瞳が自分に向けられたのを確認して、アルフォンスは満足げに笑って、頷いた。


「どうして心理学の本なんて読んでるのさ。今まであまり興味無かっただろ」


奪い取った心理学の本をぷらぷらと揺らして、アルフォンスは再度疑問を漏らす。
エドワードはう〜んと唸ると、漸くアルフォンスの問い掛けに答えた。


「実は、マスタングの野郎が、オレに専属で本屋を付けてくれるらしくて。
 だから、あっちに注文し辛い本をここで読んでいこうと思ってさ」


エドワードは上機嫌ににこにこして、明日からの読書生活に思いを馳せて、頬を薔薇色に染めた。

興奮に顔を染めるエドワードに、アルフォンスは僅かに表情を曇らせた。


「ちょっと、ムカつくなぁ。ボクらがずっと、姉さん専属だったのに」


むすっと頬を膨らませるアルフォンスに、
エドワードは珍しい物を目の当たりにしたように目を丸くして、それからふんわりと優しい姉の微笑みを浮かべた。

そのまま、そっとアルフォンスの手を握って、愚図る子供に優しく諭すように、ゆったりとした口調で口を開く。


「オレ達は本だけの繋がりじゃないだろ?
 それに、アル達以上にオレの好みを理解してくれる本屋なんて居る訳無いから。安心しろよ」
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