長編2
□土足で踏み入る人
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夏休みが終わった。
2学期が始まり、今日からまた、騒がしい学校生活が始まるのだ。
会話する事は叶わないけれど、雲雀の姿を垣間見る事だけは出来る日々が、漸く帰って来た。
綱吉は内心うきうきと、しかし表向きは長期休暇の終了に凹んだ駄目生徒を装って、久し振りの通学路を歩いていた。
「は――あ、始業式からねぼーだよ。こりゃーどー急いでも遅刻だな」
走れば確実に間に合うとは思うのだが、ダメツナは持久力も無く、足も遅い。
決して間に合ってはいけない程度の時間帯だった。
間に合わないように走って、体力を消費するのは面倒なので、やる気なくとぼとぼと歩いていると、
「やってみなきゃわかんねーだろ?」
まるで綱吉の行動を見越したように待ち伏せていたリボーンが、チャッと銃を構えて、誰かの家の塀に座り込んでいた。
「うおおおお!!!死ぬ気で登校するー!!!」
もしも、風紀委員が――というか雲雀が、遅刻の取り締まりをしていたら、
綱吉は取り敢えず捕縛されて、リボーンにばれないようにお叱りを受けるだろう。
彼は、綱吉が下着姿を曝す事を極端に嫌がっていたから。
死ぬ気モードの奥の方で冷静な綱吉が嫌な予感を訴えるので、
まさかまさかと泣きたい気分になるのだが、それでもおかしなテンションは止まらない。
そのまま走りぬけて、綱吉はとうとう学校へと到着してしまった。
校門前には学ラン姿の生徒は一人も見当たらず、ほっとしながらも、じゃああの嫌な予感は何だったのだろう…とひっそり悩む。
まさか初めての外れだろうか――。
初体験にちょっとだけ感動しながら死ぬ気が治まるのを待つと、ふと、
「まぎれもない本物…」
呻くような声が、足元から聞こえてきた。
ただでさえ視野の狭くなる死ぬ気モードの最中に考え事をしていたからか、
人を引っ掛けている事に気が付かなかった綱吉は、ぎょっとしながら声のした方を見遣った。
「だっ、大丈夫ですか?」
問いかければ、綱吉の腕にへばり付いていた生徒は、ゴロゴロゴロ――ッと転がって、突然格好付けて起き上った。
「聞きしに勝るパワー・スタミナ!そして熱さ!!やはりおまえは百年に一人の逸材だ!!」
「は?」
起き上がるなり意味不明な事を言い出したその男子生徒に、綱吉は青褪める。
まさか引っ掛けられた拍子に頭かどっかを打ち付けたのではあるまいな。
そんな不安が、彼女の頭を過った。
男子生徒は困惑する綱吉に、意味不明なテンションを持続させながら、言った。
「我が部に入れ、沢田ツナ!!」
いや、オレの名前は沢田綱吉であって、ツナは愛称なんだけれど。
誤った名前で記憶されている事に心の中で突っ込みを入れながら、
けれどさして気にする事でも無いか――と、綱吉は取り敢えず、表面上は受け流す事にした。