長編2
□敵の敵
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昼の少し前、眠い目を擦りつつ、エドワードはホーエンハイム書店から持ち帰って来た本を読み返していた。
貴族の令嬢の間で流行っているらしい、モスリンたっぷりのやたらふわふわひらひらしたドレスを鬱陶しく思いながら、
エドワードは只管に、今日やって来るという本――と本屋――を待っていた。
開け放した窓から入り込む風に煽られて、軽く一本に結わえただけの金髪がふわふわと舞う。
差し込む陽光に時折きらきらと輝くその髪が首筋を擽る度に、エドワードは眉根を寄せながら、扉を睨みつけた。
「遅ェ」
一向にやって来る気配の無いロイの言っていた本屋に、エドワードは苛々していた。
普段なら朝一番に起こしに来るホークアイをやり過ごし、朝食を済ませて片付けてから、
夜に向けての二度寝、三度寝、四度寝…と足りない睡眠を補うというのに、今日はいつ本屋が来るか分からない為、そうする事が出来ないのだ。
故に、彼女は今、かつて無い程の睡魔と半強制的に戦わされていた。
「ちっ、トロトロしやがって」
エドワードは軽く舌打ちして、表情を歪ませた。
早く新しい本を読みたいのと、眠いのとで、彼女の機嫌は下降の一途を辿っていた。
その時、漸く扉が小さく開く気配がした。
ノックも無く開かれた扉に、ロイ・マスタングか…?とちょっとがっかりしつつも顔を上げれば、
そこにはロイと一緒に、髭面の男が十数冊の本を抱えて立っていた。
男は「遅くなってすまんな、ちょっと色々あって…」と軽く言い訳をした後、じぃっとエドワードの顔を見つめた。
かと思えば突然、にかっと人好きのする笑顔を浮かべた。
「この子がお前の婚約者か、ロイには勿体無い別嬪だな。エドワード・エルリックちゃんだっけ」
「ヒューズ…お前な………」
「んな怒るなよぅ。本当の事だろ」
どうやら賞賛してくれているらしい髭面男と憤慨しているロイのやり取りに、
エドワードは訳が分からんと言うように顔を顰めながらも、男が両手いっぱいに抱える本を食い入るように見つめた。
エドワードのきらきらした視線に気が付いた男は、
抱えた書物をエドワードのすぐ前に置くと、一冊一冊確認させるように、手渡してきた。
「一応聞かされた通りに超難解なもんばっか集めてきた。こんなもんでいいか?」
エドワードは書物に向けられていた視線をそのまま、男にスライドさせた。
男はエドワードが調べたとおりの容姿をしていた。
黒い、髭面眼鏡の男。ロイ・マスタングの親友、ヒューズ家の四男坊、マース・ヒューズだ。
(マスタングの周辺の人間関係調べてて良かった。流石オレ)
胸中で自画自賛しつつ、エドワードはふんわりと笑みを浮かべた。
目の前の書物に高揚した彼女は眠気も相俟って、ロイの前であるにも拘らず、心からの笑みを滲ませる。
「ありがとうございます」
「…どういたしまして」
「……」
ヒューズは屈み込んで、嬉しそうに本を受け取りながら淡い微笑を浮かべるエドワードと視線を合わせた。