長編2

□有無を言わさぬ決定事項
1ページ/2ページ

昼間はヒューズが持ってくる書物を読み漁り、夜はホーエンハイム家で、アルフォンスやホーエンハイムと討論しながら書物を読み耽る。
そんな生活を数日繰り返したある日の、夜。
ホーエンハイム家でアルフォンスと社会科学の談義を繰り広げていると、
数時間前に店仕舞いしたにも関わらず、書店の方に客がやって来た。

酔っ払いか何かかと追い返そうと立ち上がるホーエンハイムを横目にしながらも、エドワードは特に気にするでもなく、楽しい討論を続行した。
すると、ホーエンハイムが何故か青い顔ですぐに戻って来て、言ったのだ。


「エドワード、まずい客が来た。暫く隠れてるんだ」


その言葉に、エドワードとアルフォンスは周囲に散ばせた本を抱えて、書店と居住スペースを隔てる一枚の扉へと急いだ。

気配を殺して身を潜ませて、ホーエンハイムの言う拙い客とやらの正体を見極めようと、扉に密着して書店内の様子を窺う。


「エドワード・エルリックという少女をご存知ですよね」


聞こえてきた声に、エドワードは目を見開いた。

まるで自分がここに居る事を認識し、捕えに来たかのような口ぶりだ。
まさかバレたのか――と、冷や汗をかくエドワードに落ち着けというように、アルフォンスが金色の小さな頭をぽんぽんと叩く。

エドワードはそれにへらりと力の無い笑みを浮かべて、取り敢えず窓からでも逃げ出そうとじりじりと後退りする。

音を立てないように細心の注意を払いながら、
どうにか逃げる算段を考えているらしいエドワードに、アルフォンスは大人しくしろと身振り手振りで伝えた。

(ボク達に火の粉が降りかからないようにしてくれているのは分かるけど…)

自分の事より他人の事ばかりを優先する彼女を、アルフォンス達だって守りたいと思っているのに、
当の彼女はそんな周囲の気持など一切気付かずいつだって自分だけで全てを抱え込もうとするのだ。


「姉――」


きっと父さんがどうにかしてくれる筈だから、と告げようと口を開いたアルフォンスだが、唐突に閉口した。
というのも、突然やって来た、ホーエンハイム曰く『拙い客』が、


「実は私は今、エドワード嬢の専属という形で彼女に書物を提供しているのですが、どうにも彼女の好む書物が掴めずにおりまして。
 こちらが以前、彼女と専属契約を結んでいた事を知り、相談に参った次第なのですが」


そう零したホーエンハイム曰く『拙い客』に、エドワードとアルフォンスは力が抜けたのか、その場にがくっと倒れ伏した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ