長編2

□不言実行
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エドワードに昨日ホーエンハイムに選んで貰った本を渡し終えた、その帰り。
ヒューズは迷う事無く、再度ホーエンハイム古書店へと訪れた。

書店には昨日と違い、金髪金眼の少年が鎮座している。
金髪金眼という、店主とよく似た特徴を持っていた事から、彼が店主ヴァン・ホーエンハイムの息子、アルフォンスだと容易に推測できた。
アルフォンスは、客が居ないからか黙々と本を読み耽っていて、やって来たヒューズの存在に気付いていないようだった。


「お前さんが、アルフォンスか?」


そっと問い掛ければ、彼は顔を跳ね上げ、営業スマイルと思しき人好きのする笑顔を浮かべた。


「いらっしゃいませ、どのような本をお探しですか?」


11歳の子供には思えない、しっかりとした接客態度と口調に、ヒューズは思わず目を瞬かせた。
エドワードといいアルフォンスといい、最近は賢い子供と関わる事が多いなと胸中で苦笑しながら、徐に口を開く。


「ホーエンハイムさんからも聞いてると思うが、俺は今、以前君達が専属で本を提供していたエドワード嬢と関わらせて貰っているんだ」


その言葉を聞いた途端にアルフォンスはむっと唇を尖らせて、拗ねた子供のような年相応の表情を浮かべた。


「じゃあ、貴方がヒューズさんですか」
「ああ、グレイシアは分かるだろう?一つ向こうの区画の書店の看板娘の。
 昔から、ここと親しくさせて貰っているって聞いたんだが。俺は、その婿だ」
「グレイシアさんの…」


如何にも訝しむような視線を向けてくるアルフォンスに、ヒューズは肩を竦めた。

初対面だというのに目の前の子供に異様に嫌われているらしい事実に、元来子供好きな彼はショックを受ける。
しかし、それを億尾にも出さず、ヒューズは笑みを浮かべたまま、要件を告げた。


「昨日ホーエンハイムさんに選んで貰った本を渡したら、エドワード嬢が今までに無いくらい喜んでくれてな。今日も、お願いしようと思って」
「…当然です。だって僕ら、ずっと姉…エドワード様に書物を納めさせて貰っていましたから」


アルフォンスの言葉から、彼がエドワードに特別な感情を抱いていて、彼女と接する機会を奪う形になった自分に少々の嫉みを覚えているのだと考えたヒューズは、その子供らしさに微笑んだ。


「彼女は今別の貴族の館に身を寄せていてな、自分で書物や書店を選べない状況にあるんだ。
 だから、ホーエンハイムさんが選んだ本だと言ったら、物凄く喜んでくれてな。今後も、こちらを頼らせて貰う事があるかもしれない」
「…そうですか」
「彼女は、お前さんの事をとても気にしていた。彼女に、元気だったと伝えても?」
「…………………はぁ、まあ、構いませんが」


何とも微妙な表情を浮かべるアルフォンスに、ヒューズはにこにこと笑み崩れて、適当な書物を選ばせていった。
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