長編2

□落ちて巡る。繰り返し繰り返し、始まる日々の最後
1ページ/2ページ

恐らく今日で最後だと、別れ際にアルフォンスに告げる。
社交期の終わりが差し迫って以降、ホーエンハイム家を訪れた際のエドワードの夜の日課だった。

ロイはほぼ毎日のようにパーティーに出掛けて行くので、それに合わせてエドワードも毎日のようにアルフォンス達に会いに行くのだが、
各々の貴族が主催する煌びやかな夜会がいつまで続くのかは一向に不明だ。ロイが出掛けなくなったその日が最後だとしか言えない。

しかし、いつ終わるのか問う事は危険すぎて出来なかった。


「今日で、多分最後になる筈だ」
「それ、今日で4回目だよ。姉さん」


溜息交じりに答えるアルフォンスに、エドワードは分かってるよと、げんなりした様子で返した。

毎日アルフォンスに会えるのは嬉しいけれど、二重生活は正直限界に来ている。
加えて、夜会に行く度に、毎回と言っていい頻度でロイと接触するというのも面倒くさい。

そもそも、嫌々とはいえ仮にも婚約者の居るいい大人が、社交期の末まで遊び呆けているというのはどういう事だと、呆れを禁じえない。
勿論仕事上の人脈を得る為というのもあるだろうが、それにしたって他人の、臭い香水のにおいを部屋にまき散らすのは、いい迷惑だ。


「はあ。明日が来なきゃいいのに」
「溜息を吐くと、幸せが逃げるって言うよ」


信じてもいない迷信を漏らしながら、アルフォンスはマスタング邸へ向かうエドワードの横に並んだ。
途中まで送っていく心算なのだと、暗に示すその行動に物言いたげな表情を浮かべるエドワードに、アルフォンスはにこりと微笑んだ。

深夜だから危険だと言うのなら、女の子であるエドワードこそ危ない。
幾ら彼女が腕っぷしが立つといっても、男女の力の差は歴然だ。この世には、彼女より強い男なんてざらにいる。
それ以前に、貴族である彼女を身代金目的で誘拐する存在を否定する事は出来かねる。
だから確実に、アルフォンスよりはエドワードの方が危険なのだ。

視線が雄弁に語る彼女の思考をいくらだって言い包める事は出来るけど、アルフォンスは敢えて本音を口にする事にした。
その方が、エドワードが早く折れてくれる事を知っているからだ。


「送っていくよ。もしも今日で最後なら、なるべく長くいたいからね」
「それ、今日で4回目だぜ。アル」
「ふふ、そうだね」
「はは。飽きねえな、オレらも」


稀有な金色の髪と瞳の、見目麗しい男女は、酷く目を引く。取り巻く空気は兄弟のようでも友人のようでも恋人のようでもある。
自然と視線を集めるが、すっかり慣れ切っている二人は無邪気に笑い声を上げながら、マスタング邸を取り囲む森の手前までやって来た。


「じゃあな、アル。来年か明日かは、まあ、マスタングしか知らんから約束は出来ないけど。またな」
「うん。また、今度ね」


すぐ翌日か、遠い翌年か。確定しないけれども、いつか、が必ず訪れる事を二人は言葉にして確認し合う。

そうしてすぐに、互いに踵を返した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ