長編2

□臆病なライオン2
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沢田綱吉、だって君、女子だろう。
その言葉に綱吉は盛大に目を見張った。
その断定的な物言いに、あんぐりと口を開いている。

間抜けなその様を、雲雀はじっと見つめた。

先祖にイタリアの血が混じっているだけあって色素の薄いその髪と瞳の色。小さくて細い、それなのに骨張っていない柔らかい身体。
母親譲りのその甘く愛らしい顔立ちはどう見たって少女のものだと、雲雀は思う。

(まず骨格からして違うからね。まあ、この子成長期が頗る遅れているようだから、性差が出てない分気付かれてないけど)

綱吉が自身を男と偽りそれを押し通そうと覚悟を決めたのならば、雲雀だってそれを受け流して素通りしてやろうと思っていた。
何故なら沢田綱吉が男であろうが女であろうが、雲雀には関係の無い事だったからだ。
けれど、今の状況下では、綱吉が女であるという事実は大変重要な意味を持ってくる。

エレノア・ロッソは沢田綱吉に性的暴行を強いられそうになったという。けれどその沢田綱吉は、実際は女だ。
勿論綱吉が同性愛者だというのなら話は変わるが、
女子に憧憬の眼差しを向ける事はあっても、そういった素養のある様子はこれまで見受けられなかったからそういう事実はないのだろう。

つまりは沢田綱吉が少女であるという事実は、並中の風紀と並盛の秩序を著しく乱したエレノア・ロッソの偽証を証明する論拠となるのだ。


「せめて僕か君の耳に、もっと前の段階で彼女の供述が入っていれば、君の性別を公表してそこでおしまいだったのに。ここまで被害が拡大してしまって…」


ここまで事態が悪化の一途を辿っている中で、今更真実を公開するのは逆に危険すぎる。
彼らの中には沢田綱吉=悪、下位の存在であり罰するべき生物であるという間違った固定観念が根付いてしまっているのだから。

精神的肉体的暴力に加えて、性的なものが加わったとしたら、沢田綱吉は今度こそ本当に壊れてしまうかもしれない。

全く忌々しい事この上ない状況だ。

思わず舌打ちした雲雀に、漸く思考が回復したらしい綱吉は顔を上げて、思い切り強張った表情を浮かべた。


「何を言ってるんですか、ヒバリさん。俺が女子な訳」
「君こそ何を言ってるの。惚ける気?僕を謀る心算とは良い度胸だ、咬み殺す」


ギロッと睨みつけトンファーに手を掛けた雲雀を目にした綱吉は、諦めたように項垂れた。
俯いたが故に旋毛しか見えなくなり雲雀が怪訝な表情を向けると、再度窺うように視線を上げた綱吉が、恐る恐るという風に口を開く。


「何で分かったんですか、ヒバリさん」


並盛の支配者たる雲雀ならば住民の戸籍くらい簡単に調べられるだろう。しかし、綱吉は戸籍上も男だ。病院ではなく自宅出産なので、住人伝手という事もあり得ない。


「知ってたから」


情報の出所を探るべく決死の思いで性別を認めた綱吉の疑問に、雲雀は事も無げに答えた。

分かる分からないじゃなくて、ただ知っていた。

そう告げる雲雀に綱吉は完全に沈黙した。


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第二話:暗闇が空を染めてもその度に

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