長編2

□また一人ここへ迷い込んできた
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帰宅時に己を猛犬から救ってくれた幼女が、手も触れずに件の犬を吹っ飛ばしたのを目にした段階で、綱吉は覚悟した。
これから訪れる、もう何度目になるか分からない嵐を。


「今日変な子に会ってさー、そいつ手を直接触れずに犬を倒して…。おい、リボーン聞いてんのか?」


どうせマフィア関係だろうから勝手に情報収集なり抗争なりやってくれればいいと、リボーンに適当に謎の幼女の情報を与える。しかし当のリビーンからの返答はない。
思わず、誰の所為でこんな面倒事が連発してんだと苛立つが、顔を上げた瞬間そんな思考は吹き飛んだ。
リボーンの顔いっぱいに、蜻蛉が密集していたのだ。

一体何度人の部屋に昆虫類を持ちこんだら気が済むのか。
一応女の子の部屋なのだからその辺にも気を使えと、綱吉は昆虫に慄きながらも思った。

だがリボーンにとっては虫は情報収集の道具らしくて、まるで本当にどこぞの何者かに話を聞いたかのように、淀みなく集めた情報を組み立て始めた。


「この町にイーピンがきてるらしいな」
「イーピン?誰だよ、それ」
「人間爆弾と言われる香港の殺し屋だぞ」
「人間爆弾?」


その言葉に妙な既視感を感じて記憶を辿れば、獄寺隼人が思い出された。
確か彼の字は『人間爆撃機』だった筈だ。似たり寄ったり、マフィアは語彙が少ないのかと、綱吉はひっそり思った。

それにしても、イーピンというのは恐らく先程の子供の事だと思われるが、触れずに犬を蹴散らした事実と『人間爆弾』という字がいまいち結びつかない。
まだ何かあるのだろうかと、綱吉は胸中で溜息を吐いた。

まず思うのは、

(女の子に『人間爆弾』とか、失礼極まりないな…)

幼女がその通り名を不服としているかは知らないが、酷い事だと綱吉は漠然と感じた。




翌日、何故か学校にやって来ていたイーピンが京子にお礼を言われている様を目にして、綱吉は不思議と感心した。

近頃問題行動が目立つ幼児ばかり目にしていたので、不思議と良い子であるらしいイーピンに心癒される。
子供はそうじゃないとなぁ…と、可愛いものも子供も大好きな綱吉は、京子とイーピンのやりとりを見つめた。可愛い女の子と幼女のやり取りは、やはり和む。

照れ隠しにキッと礼を述べた相手を睨みつけるイーピンは、妙に可愛かった。

――と、あまりに見つめすぎたのか、イーピンがこちらを振り返りハッと目を見張った。
次いで、懐にしまっていたらしい写真を取り出し綱吉と写真を交互に見比べる。

(何?まさか、ボンゴレ十代目候補を殺しに来たとか…?勘弁してくれないかな)

幼女を蹴散らす趣味はないと溜息を吐く綱吉に、イーピンは頻りに上階を差し、その場を後にした。恐らく屋上に来いというジェスチャーであろうと推測し、綱吉は一歩を踏み出した。
秋になり肌寒くなってきた時期に幼女を放置するなんて良心が許さないので、渋々、彼女は面倒事に巻き込まれる事を決めたのだった。
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