長編2

□臆病なライオン5
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人っ子一人存在しない屋上で、綱吉は久しぶりにゆったりとした昼休みを取っていた。

平穏だった頃は獄寺や山本と楽しく昼食を取っていたものだが、今や休み時間は窮屈な地獄と化していた。
常に見張られ暴力をふるわれる。食事だってままならない。
それを見かねた雲雀がフェンスの老朽化などを理由に、これまで開放されていた屋上を突如立入禁止にしたのだ。

常に施錠されるようになった屋上の鍵をこっそりと渡されて、綱吉は一人屋上で昼食を取る時間を得た。

生徒を撒くまでの過程が大変だったが、超直感を駆使してどうにか屋上まで辿りつけた。


「食べてる瞬間を常に録画されてるって言うのは、恥ずかしいけど。でも、食べれない上に殴られるよりはマシだし」


目撃者が一人もいない時間があれば、それを利用してエレノアが偽証をするかもしれない。それを懸念した雲雀によって、屋上には新たに監視カメラが取り付けられている。
これで綱吉のアリバイはばっちり立証できるので、文句は言っていられない。

ふぅ、と溜息を吐いて、綱吉はミートボールを口に放り込んだ。

視界の隅にある、木漏れ日の心地良さそうな校庭では、リボーン達がエレノアと共に昼食を取っているのが見えた。
彼らは最近、初夏のこの時期一番気持ちいいあの場所で、揃って昼食を取る。
だから常に、屋上に仕掛けられた複数のカメラの内数台は、校庭を向いている。
綱吉が屋上に居た瞬間に、エレノアが遠く離れた場所に確かに居たのだという証明のために。


「ここまでしてくれて、ありがたいよなぁ。カメラだってただじゃないのに」


それが偏に並盛中学の風紀のためであったとしても、嬉しかった。思わずはにかむ。
しかしふと、ある疑問が生じた。


「でも。なんでヒバリさん、ここまでよくしてくれるんだろ」


ありがたい事だと思うけれど、風紀のためと言うなら、常の雲雀なら風紀を乱した者達を即座に咬み殺して終わりの筈だ。
綱吉の無実を信じていることを悟られたらどうなるとか、そんな事は考えず、ただ目の前に示された歪みを正す。それだけに従事した筈だ。

考え出すと不思議だった。けれど、嫌な感じはしない。
その答えが何なのかは分からないままだけれど、それは綱吉にとって悪い事ではないのだと、超直感が教えてくれた。


「まあ、いいや。それより問題は、全部が解決した後、俺がちゃんと受けた分だけの恩返しを出来るかどうかだよな」


むぅ、と綱吉は唸った。保護してくれて、手当てしてくれて、安心できる場所だって提供してくれた。
群れ嫌いなのに綱吉と炎真の、ボンゴレによって断絶させられかけた絆も取り持ってくれた。
この恩に報いたいけれど、綱吉には雲雀に何かを齎せるだけの力はない。


「俺ごときにお仕事の手伝いができるとも思えないし、そもそも邪魔って咬み殺されるだろうし。はっ!まさか、助けたからって戦わされるとか!?ヒバリさん、戦闘狂だし!」


確かなアリバイが立証できるように、リアルタイムで監視カメラの映像を雲雀が見ていることを知らないまま、綱吉は一人寂しく、ぽつぽつと独り言を零しながら、昼食を食べ進める。

呟きながら一人百面相をする自分を、雲雀がカメラ越しにひどく優しい瞳で見つめていることを、彼女はもちろん知らなかった。
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