長編2
□ダイヤモンドダスト
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結局、最終的にはロイが折れる形になり、エドワードは束の間の自由を手に入れた。
元々ロイには、終わりの見えない敵意と悪辣な言葉の応酬を続けてまで、エドワードを夜会に連れていく意味は無かったのだ。
ただ、マスタング家とエルリック家が手を結んだ事を楽に示せる手段が、
エドワードを伴って夜会に出席するというものだっただけで、彼女との婚約をわざわざひけらかしたい訳では無かった。
それに、二つの家の結び付きを示す手段は、他にもあるのだ。
簡単に折れて見せたものの、ロイはふと疑問を抱き、首を傾げた。
「君はどうしてそんなにも夜会が嫌いなのかな。他家との関係を密接にするにも、有用な情報を引き出すにも、有効な場所なのにね」
何より、貴族の女性は着飾った姿を大衆に晒し、容貌を認めてもらう事に懸命だ。
エドワード程の美貌の持ち主なら、たとえ幼くても人目を集める事は間違いないだろう。
そこまで考えて、ロイはいや…と首を振った。
エドワードは磨き上げられた容姿をしている割に、存在を押し殺し空気に溶け込もうとしている節があった事を思い出したのだ。
益々エドワードの夜会嫌いの理由が気になって、ロイはまじまじとエドワードを見詰めた。
エドワードは微かに眉を顰めて、答えた。
「私は貴族社会になんて、興味が無いんです。
どうせエルリックは父の代の後継争いで後継候補の血は絶えましたし、今代で終わる事は目に見えています」
暗に自分自身も家督を継ぐ心算は無いのだと示すエドワードに、ロイは益々訳が分からない。
今時、男子で無いと家督を継げないという事は無い。
勿論、男児が居ればその子が全てを相続するし、男児が生まれるまで子作りに励む者もいる。
しかし、エルリック家には、エドワードしか居ないのだ。
「何故、君の両親は第二子を設けようとはしなかったのかな?」
ロイの質問に、何やら意味深長な笑みを浮かべた。
暗い影の落ちたエドワードの微笑に、ロイは一瞬目を瞠る。
これは何かあるな…と思ったものの、エドワードのどこか哀切の漂う瞳に気圧されて、それ以上何かを問う事は出来なかった。
突然沈黙したロイに、エドワードはフン…と詰まらなそうに鼻を鳴らすと、食べ終わった食器類をトレイに戻し、ロイに背を向けた。
今日はロイが居る為にメモを用意する事が出来なくて、少しだけ悲しげに瞳が揺れるが、
背後のロイにそれを悟らせる事も無く、エドワードはトレイを手に室外へと向かった。
すると背後から「待ちなさい」と声が掛かり、振り返った途端に、プレートを奪われた。
「私が片付けてあげよう。どうせなら、一纏めに片付けた方が、使用人達にとっても楽だろうしね」
「……恩着せがましいんだよ」
「ん?何か言ったかい?」
「アリガトウゴザイマス、マスタング様はオヤサシイんですネ」
あからさまな作り笑顔と棒読みな台詞に、ロイはふんわりと微笑した。
「ドウイタシマシテ」
再度、ブリザードが二人の間を吹き抜けた。
終.