長編2

□世間を超越する人
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他人様の家の前で、行く手を阻むように仁王立ちしている、見知らぬ不良の群れ。
その手には武器と思しきナイフやら棍棒状の物やらの原始的な武器、はたまたスタンガンのような近代的な武器が握られている。

ついこの間まで、猫背で俯いて自信なさ気に通っていた道を、
マナー講習の見本のような美しい姿勢で歩いていた綱吉は、仕方なしに立ち止まって彼らと相対した。


「何か用ですか…なんて聞いても無駄ですよね。貴方達が用があるのは、オレじゃなくて恭弥でしょうから」


そう呟くと、綱吉は溜息混じりに鞄を持ち直した。
そしてスカートを翻しながら、彼らに蹴りをお見舞いする。


「申し訳無いんですけど、態々捕まってあげるほど暇じゃないんです、オレ。
 救急車くらいは呼んであげますので、倒されてください」


そんな事を言っている間に少年の一人がナイフを振りかざしてきた。ひょいっと軽く避けた綱吉の鼻先を、ナイフがすり抜ける。

見るものが見れば、ほんの僅かな動作で、無駄な動き一つする事無く攻撃をかわした綱吉と少年達の差を理解しただろう。
しかし、彼らはその力の差を把握できるほどの力量を持ってはおらず、誰一人逃げ出す事無く、綱吉に向かってきた。

一斉に飛び掛って押さえ込もうとしてきた彼らを易々とかわすと、うち一人を背後から羽交い絞めにする。

首を締め付け気管と脈道を圧迫すれば、30秒もせず、少年は意識を失くした。


「わざわざ正当防衛に持ち込むために殴られてやらなくても恭弥が対処してくれるらしいので、すみませんけど…」


一瞬も花を持たせず葬り去る事に対して謝罪の言葉を告げる綱吉に、ぞわりと怖気を覚えた時にはもう――全てが遅かった。





(まあ、予想はしてたから、早く出てきたんだけど)

綱吉は襲い掛かってきた不良を一通り叩きのめしてから、今では珍しくなった公衆電話を探して救急車を呼んでやった。
鳴り響くサイレンの音を耳にして、安心して十数メートルほど歩いたら、再度不良につかまる。これを数度繰り返した。

(昨日あれだけ暴れたのに、これだけ情報が出回ってないってのも、凄いよな)

昨日、2−Aの一般生徒の前で乱闘を繰り広げた割に、噂は一切広まっていなかった。

2−Aの生徒達が何を言っても、誰も信じてはくれなかったらしい。
当然と言えば当然だろう。何せ綱吉は10年以上もダメツナを演じ続けて、その虚像をあたかも真実のように浸透させてきたのだ。

百聞は一見に如かずだと、他所のクラスに漏らした際に信じてもらえなかったことで悟った生徒達は、
以後一切少女になった沢田綱吉の強さを口にしない事にしたらしい。

だから、不良、他校生、その他雲雀に恨みを持つ食み出し者(ヤクザ等)達が挙って綱吉の元を急襲しに来た。

登校途中だけで既に五組の集団を潰した綱吉は、もう面倒臭くてたまらない。

点々と転がる不良等の躯に車や自転車が迷惑するかもと考えたが、
三組目辺りから道の端に寄せる事すら億劫になって、そのまま放置している。

今朝の出来事にも目撃者は居たが、やはりまだ噂にはならないような気がした。

(今日は何となく厄介事が起こる気がしたけど、こんな事かよ)

すたすたと歩きながら、綱吉は盛大な溜息を吐いた。
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