長編2

□flower in the center of the world X
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その頃ロイはというと、エドワードが司令部に向かっている事も知らず、げんなりとした表情で、
久し振りに顔を合わせた士官学校からの知人、自称親友のマース・ヒューズと顔を突き合わせていた。


「いいから、早く捜索隊を出せ!今すぐだ!」
「阿呆か、貴様は。たかだか迷子の為にそんな事出来る訳無いだろう。憲兵に言いに行け、憲兵に」


犬猫にするようにしっしっと追い払おうとすれば、ヒューズはダン!とロイの執務机を叩いた。
振動で、決済済みの山と未決済の山の一部がそれぞれ崩れ、床に散らばった。

ロイがイラっと眉を寄せると、慌ててハボックやフュリーがそれを回収する。
悪魔の降臨は是が非でも食い止めたい彼らの健気な行動に、頭に血が上っているヒューズは気付かない。


「馬鹿!お前、こうしている間にエリシアが誘拐されたりなんてしてたら!!
 ……ああああああもしかしたら変質者の毒牙に掛かっているかもしらん!なんたってあの可愛さだ!!!!」


懐から写真を取り出し拝むように頭上に掲げるヒューズに、ロイは何処までも冷めた表情で言った。


「大丈夫だ、この辺で変質者が出たら、即刻私が焼き捨てているからな」


自信満々に告げるロイに、その辺りの事情を知っている部下達はがっくりと項垂れた。

そう。確かにロイは、イーストシティで変質者といった類の者が確認されたら、猛烈な勢いで処罰し捕縛する。
まるでテロリスト並みの力の入れように一度何故かと問い掛けたら、当然のように「エドワードに何かされては困るだろう」と返された。

おかげでイーストシティの治安は大分良くなったが、
その理由がたった一人の子供の為だと思うと何だか、呆れるというか、遣る瀬無い気持ちにならざるを得ない。


「兎に角、私は今仕事中だ。邪魔をするならセントラルに失せろ」


仕事が滞れば帰宅時間が遅れるので、定時に家に帰りたい一心で、ロイは仕事人間も形無しといった様子で仕事に取り組んでいる。
共に業務を行っている直属の部下達からすれば、喜ばしさと耐え難さが半々だ。
何事も無ければ自分達も定時に帰宅できるが、それが叶わなければ悪鬼が生まれるのだから、当然だろう。


「お前、親友の娘が自分の管轄内で行方不明になったってのに、何とも思わないのか!?」
「思わんな。ここに来るなら、何か起きてからにしてもらえないか。
 何度言われても部下も隊も貸さんし、時間の無駄だ。第一私に親友などいない」


署名済みの書類を纏めながら、ロイは片眉を吊り上げて、ヒューズに告げた。

彼にしてみれば、自分に娘を探せと騒ぎたてる暇があるなら、己で探せと蹴り飛ばしてやりたい所だった。

どこまでも冷たいロイに、ヒューズはぐっと唇を噛む。

ロイに大切な存在が出来たという噂を耳にしたから、その人物を一目見ようとやって来たのだ。
また、大切な人間が出来た事で欠陥人間がどう変わったのかも見たかった。

ヒューズにとってロイは、真実、唯一無二の親友だったから。

それが、全く何も変わっていないように見えて、ヒューズは大切って言ってもその程度か…と、胸中で悪態を吐いた。

(他人に価値を見出せるようになったこいつなら、俺のエリシアを一緒に探してくれると思ったのによ!)
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