長編2

□flower in the center of the world X
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さて、その少し前。
沢山の甘い物を抱えて司令部へと向かっていたエドワードは、突然ひしっと背後から衣服を掴まれて、驚いて振り返った。


「パパ…どこ…?」


女の子がうるうると瞳を潤ませて、縋るように自分を上目遣いに見つめている様に、エドワードは思わず息を詰まらせた。

エドワードは子供だが、賢しさでいえば並の大人以上のものがあったので、そうそう迷子になったりしない。
だから、迷子になる不安というものはあまり分からない。

女の子が何故、見ず知らずの、しかも子供である自分に縋るのか理解できなかった。
また、孤児院で生活していたものの、
あまり他の子供と関わる事の無かった――寧ろ彼らには苛められていたエドワードは、小さな子供というものに苦手意識があったのだ。

潤んだ瞳で、自分を頼り、懸命に言葉を綴る見知らぬ女の子に、エドワードは困ったように柳眉を下げた。


「えっと、あの、な?そういうのは、憲兵さんに……」
「ひっく…」
「あああああああ、な、な、泣くな!そうだ、クッキー食べるか!?いっぱいあるんだ!」


瞳を潤ませてはいたものの辛うじて泣きだしてはいなかった女の子が、
一瞬しゃくり上げるような声を発したので、エドワードは面白いくらいに慌てた。
慌てて抱えた物の中から、クッキーの入った袋を取り出し、与える。

女の子はぐすぐすと洟を啜りながら、エドワードが差し出したクッキーをじっと見つめた。

エドワードは困ったような表情を浮かべたまま、取り敢えず、半開きの少女の口の中にクッキーを一欠けら突っ込んだ。
女の子は突っ込まれたクッキーをもぐもぐと咀嚼しながら、徐々に笑顔になっていった。


「おいしい!」
「そうか。よかった…」


半べそ状態から回復した少女に、エドワードはぐったりとした様子で答える。

それから、まずい事をしたというような表情になって、


「でも、いいか。知らない人から食べ物を貰ったりしたら、本当はいけないんだからな。
 今日は特別だけど、今度からは絶対駄目だからな。ちゃんと覚えとくんだぞ」


エドワードは未だクッキーの大量に入った袋を少女にあげて、困ったように告げた。
少女は「うん!」と分かっているのかいないのか判然としない元気な声を上げて、もぐもぐとクッキーを口に運んでいく。

さっくさくに焼き上げる為に苦労した代物だが、減っていくスピードは凶悪に速い。
益々がっくりと肩を落として、エドワードは少女の手を握った。


「交番に行こう。もしかしたら、お父さんが探しに来てるかもしれないし。おいで」
「うん」


女の子は、美味しいクッキーをくれたエドワードを完全に良いおにいちゃんだと判断したらしく、ちまちまと可愛らしい足取りで付いてきた。
司令部とは反対の、西の方にある小さな交番を目指しながら、エドワードは溜息を吐いた。

ロイは憲兵とは違う、東方全てを与る職務に就く人間だ。迷子の保護など彼の仕事では無い。
テロ等の凶悪事件を扱う彼に、迷子を連れて会いに行っては迷惑だろう。

エドワードは女の子の歩調に合わせて歩きながら、次々女の子の腹に収まっていく、
本来差し入れるべく持って来たクッキーや、鞄の中に結構な重量で鎮座しているケーキを見遣って、困ったように肩を竦めた。
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