長編2

□夢にまで見た
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「あ、目、覚ました」


ぱちりと目を覚ませば、アルフォンスとその父親のヴァン・ホーエンハイムが、心配そうにエドワードを覗き込んでいた。
見知った人間のいきなりのどアップに、エドワードはぴしっと固まって、現状把握に努めようと視線を彷徨わせた。

周りの状況から察するに、ホーエンハイム家の客間のベッドの上に転がされているようだった。

(そういや、マスタングんとこをちょっとだけ抜け出してきたんだった!)

エドワードは慌てて身を起こした。

一体自分はどれだけの時間意識を失っていたのだろうと、焦りが生まれる。

下手をしたら、館を抜け出してここに来ていた事がばれてしまう。
館を抜け出した事がばれるのは別に大した問題では無いが、この一家に迷惑を掛けるのは嫌だった。


「アル、俺、どのくらい寝てた!?」
「え、5分くらいだけど」
「なんだ、そっか」


ほっと安堵の息を漏らしたエドワードに、ホーエンハイムが怪訝そうに眉を寄せた。

エドワードは唇を噛み締めて、ベッドの上にじっと腰かけていた。

夜会に行ったロイが女と情事に耽るかどうかは、殆ど賭けなのだ。いつまでここにいていいのかは、エドワードには分からない。
しかし、出来るだけ長い時間、この場に居たかった。

この家にやって来て、再確認したのだ。
この場所こそが、自分の帰る場所なのだと。

貴族という特権階級は、はっきり言ってエドワードには合わなかった。
公にはされていない半分の血が、そうさせるのかもしれない。

権力に踏ん反り返るよりも、力に阿るよりも、下界で日々の暮らしの中を精一杯生きる事の方が、彼女には向いていた。


「アルフォンス…」


エドワードは、悲しげに声を漏らした。小さな声だった。


「ごめんな。ずっと、心配掛けちまって」


エドワードの言葉に、アルフォンスは全くだよ、と漏らして、


「いきなり本はいらないとか言われて、僕ら吃驚したんだから」


そう言いながら、部屋に積まれた大量の書物を指さした。
エドワードはアルフォンスが指し示す先に視線を向けて、「あっ」と声を上げた。

この部屋は、殆どエドワード専用の部屋だった。

時折館を抜け出してはやって来るエドワードの為に、物置だったこの部屋は客室へと変貌を遂げたのだ。

その場所に詰め込まれた本は、全てエドワードのものだった。


「エルリックの人達に言われて、ボクらが姉さんの本を引き取ったんだ。
 そしたら、本以外の、家具とかも処分されてて、吃驚したんだからね!」


館に本の回収に向かったら、エドワードの所有物全てが処分されている所だったらしい。
それを目にして、彼らは最悪の想像をしてしまったと怒りで一杯になった表情で呟いた。

最悪の想像とはつまり、エドワードが死亡したのではないかという事である。

ホーエンハイムも、エドワードの所有していた本の数々を古書として売り出す気にもなれず、此処に留め置いていたのだという。

エドワードはまさか実家がそんな事になっているなんて思いもせず、目をまん丸く見開いた。
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