長編2
□夢にまで見た
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「じゃあ出戻りは不可能なんだな。くそ、マジかよ」
盛大に顔を顰めるエドワードに、アルフォンスとホーエンハイムが首を傾げた。
二人はエドワードがエルリック家から消えた理由を知らないのだ。
頗る健康な様子で姿を現して、実家の事を一切把握していないらしい彼女に、疑問ばかりが湧く。
この少女は今、13歳の身空で『出戻り』という単語を使わなかっただろうか。
何だそれは。
どういう事だ。
目を白黒させる二人に気が付いたエドワードは、不満たっぷりな拗ねた態度で、
「いやオレさ、実は婚約させられちまったんだよね。
結婚はまだなんだけど、もうずっとそこに居るように言われてんだよ。マスタングって知ってるだろ?」
瑣末な不平不満を口にする時と変わらない様子で、
一生を左右するような事を口にするエドワードに、アルフォンスとホーエンハイムは「ちょっと待て」と彼女の言葉を遮った。
「マスタング家の子息って、27歳って聞いたよ!?確か、一人息子なんだよね!」
あまりの年齢差に半ば絶叫するように言うアルフォンスに、エドワードは笑った。
そして、その通りだと言わんばかりに、腕を組んで力強く頷く。
おっさんと結婚させられるオレって可哀想だろ、と爆笑するエドワードに、
亡くなったトリシャとは歳の差婚を果たしたホーエンハイムは困ったような表情を浮かべた。
しかし、ホーエンハイムとトリシャの婚姻と、エドワードとロイとの婚姻には決定的な違いがある。
それは、両者が思い合っているか否か、である。
歳の差婚に対しては、ホーエンハイムには文句のつけようも無い。
だが、愛情の無い結婚を、娘のように可愛がってきた少女がするという事実は受け入れ難かった。
「まあ、貴族は貴族と結婚するってのが当り前の世界だからな。うちは由緒正しい公爵家だし、事業の方も栄えてる。
下手な所に嫁がせるよりは…って、同じくらいの伝統と財力のあるマスタングを選んだんだろう。
政略的なもんだし、歳の差とか愛情とか言ってらんねーよ。ま、出来ればそのうち逃げるけどな」
二者それぞれ異なった反応を見せるアルフォンスとホーエンハイムに、エドワードは肩を竦めてそう告げるだけだった。
当の本人があまりにも何でも無い態度を取るので、二人は何をどう言ったらいいのか分からない。
沈黙を貫いていると、エドワードは更に続けた。
「大体さ、オレと婚約者のロイ・マスタングはさ、超仲悪いんだよ。
だからもしかしたら、向こうに限界が来て断わりいれてくれるかもしれないぜ」
ニヒヒ、と悪そうな笑みを浮かべるエドワードに、アルフォンスは微妙な表情をした。