長編2

□夢にまで見た
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気乗りしない婚約に、エドワードがそこはかとなく…とは言えないほど大っぴらに抵抗を示す事は、彼女の性格上分かり切った事である。
限界が来て――とは、一体何をやらかしたんだ、と胡乱げな視線を向けるアルフォンスに、エドワードは心外だと言いたげに、


「オレは初潮も来ていないガキだけど、マスタングの奴はガンガンヤりたい盛りなわけよ。
 だから、オレ、超嫌がられてんの。でも、それってオレのせいじゃないし」


年代以前の問題だろ…と零すエドワードに、アルフォンスとホーエンハイムはひくりと顔を引き攣らせた。


「姉さん、そういうカミングアウトはどうかと思うよ…」


古い付き合いで半ば兄弟という感覚をお互いに抱いているとはしても、
所詮他人でしかない人間に初潮の有無を知らせるのは間違っていると、アルフォンスは懸命に訴えた。
その訴えに、エドワードは何がそんなに恥ずかしいのか分からないと言いたげに、首を傾げた。

情緒面は未発達な天才児に、アルフォンスとホーエンハイムは項垂れるしかない。

エドワードは、そんな二人に構わず、更に言葉を続けた。


「だから、オレの婚約者殿は、社交界で女漁りに精出してんの。多分今頃ヤりまくりだな。うん。
 そんな訳で、社交期の間だけはオレから注意が逸れるから、その間はオレは外に出れんの。朝には帰らないとだけどな」


エドワードは13歳らしい無邪気な笑顔で、嬉しそうに婚約者の不貞を語った。余程外に出られる事が嬉しいのだろう。

元々エドワードは、エルリック公爵家がその身に抱える秘密が露呈するのを恐れるあまり、実家に居た頃から公然と外出する事が稀だったのだ。

金色の瞳に楽しげな光を灯らせて、跳ねるようにベッドを飛び降りて、エドワードはアルフォンスの手を取った。


「暫くはこっちに来れる筈なんだ!社交期が終わったらまた一年後になるけど、でもずっと会えないよりは全然マシだろ!?」


エドワードはアルフォンスの手を握りながら、くるくると踊るように回り始めた。
アルフォンスは慌てて、彼女に合わせるように同じようにくるくる回って、ステップを踏んだ。

エドワードが貴族の家庭教師に教えて貰えないような事をホーエンハイム家で学んだように、
アルフォンスも貴族の作法や習い事をエドワードから学んでいたのだ。

ひょこひょこと覚束ない足取りではあるものの、己の教えたステップを踏むアルフォンスに、エドワードは微笑んだ。


「ほんの少しの間だけでも、オレ、もう一回アルに会えて良かった。親父にもな」


金色の、琥珀のような輝きを灯す瞳に、アルフォンスも嬉しくなった。

半年ぶりの再会の為の道則は容易ではなかっただろう。
それでも、エドワードはアルフォンスやホーエンハイムに会いたい一心で、ここまでやって来てくれたのだ。


「うん。ボクも嬉しい!」


エドワードの言葉に、アルフォンスは最上級の笑顔を浮かべた。



終.
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