長編2

□スキキライスキ
2ページ/3ページ

ロイはかつて無い程胡散臭そうに己を見つめてくるエドワードを怪訝に思ったようで、おずおずと口を開いた。


「何だい、その顔は」


ロイのその言葉に、エドワードは盛大に顔を顰めると、軽く舌打ちを交えつつ、


「気色悪い事言うからっ…でしょう。テ…貴方のせいで鳥肌が立ってしまいました」


身震いしながら、寒さに凍えるように体をかき抱いて、エドワードはドサリと椅子に腰を下ろした。

縺れたドレスを鬱陶しそうに払いながらロイを睨みつければ、彼は褒めたのに…と首を傾げながら、ゆったりと微笑を浮かべた。


「もしかして期待させてしまったのかな?私が君を好きになると」
「ふはっ、期待なんてしませんよ。そんなおぞましい事」


ロイの言動にエドワードは噴き出して、汚らわしい物を見るように瞳を細くした。

すぅっと細くなった金色の瞳の底知れない輝きに、
ロイは相変わらず子供らしくない娘だと溜息を吐くが、エドワードはロイの態度など綺麗に流して椅子の上に丸まっていた。


「おぞましい…?君は本当に失礼だな」
「感情の無い結婚を推し進めた挙句、婚約者がいるのに女とベッドインする貴方より、礼議は弁えていると思いますよ?」


ロイにばれないように欠伸を噛み殺しながら、エドワードは艶然と微笑んだ。

拗ねた子供が縮こまるように膝を抱えて、それなのに大人びた艶っぽい微笑を浮かべるエドワードに、ロイは一瞬目を見開いた。

きらきら輝く金色の瞳には、大人の艶なんてものは一切感じられない。しかし、表情は悦楽を愛する大人のように見えた。

アンバランスなエドワードのその様子に、ロイはちょっとだけ、おかしいな…と思った。

逆の女は、それこそ頻繁に見掛けられた。

清楚な振りをして過大な性欲を秘めた貴族の婦女は、貴族の中で特に容貌の整ったロイを目にしたら、ここぞとばかりに取り巻いてきたからだ。

しかし、エドワードは逆だった。
そんな彼女がロイには掴めない。

言葉を出しあぐねるロイに、エドワードは首を傾げた。

(何だ、こいつ。言い返さねーのか?)

言葉も無く自分を見下ろすロイに、エドワードは艶然とした表情を形成するのをやめて、憮然とした表情を向けた。


「図星だからって何も言い返さないんですか。大好きな夜会の場で舐められますよ、嘘でも否定しないと。
 貴方が舐められるって事は、婚約者の私も侮られるという事なので、勘弁願いたいんですが」
「………君は随分、演技が上手いんだね。さっきの…」
「そうですね。取り繕う能力が無いと、こんな腐った世界を生きてはいけませんから」


肩を竦めるエドワードに、ロイはああ、と訝しげな声を漏らした。

何かを逡巡するようなロイの声音に、エドワードは懊悩しているのはこちらだと強く思った。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ