長編2
□スキキライスキ
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ロイはかつて無い程胡散臭そうに己を見つめてくるエドワードを怪訝に思ったようで、おずおずと口を開いた。
「何だい、その顔は」
ロイのその言葉に、エドワードは盛大に顔を顰めると、軽く舌打ちを交えつつ、
「気色悪い事言うからっ…でしょう。テ…貴方のせいで鳥肌が立ってしまいました」
身震いしながら、寒さに凍えるように体をかき抱いて、エドワードはドサリと椅子に腰を下ろした。
縺れたドレスを鬱陶しそうに払いながらロイを睨みつければ、彼は褒めたのに…と首を傾げながら、ゆったりと微笑を浮かべた。
「もしかして期待させてしまったのかな?私が君を好きになると」
「ふはっ、期待なんてしませんよ。そんなおぞましい事」
ロイの言動にエドワードは噴き出して、汚らわしい物を見るように瞳を細くした。
すぅっと細くなった金色の瞳の底知れない輝きに、
ロイは相変わらず子供らしくない娘だと溜息を吐くが、エドワードはロイの態度など綺麗に流して椅子の上に丸まっていた。
「おぞましい…?君は本当に失礼だな」
「感情の無い結婚を推し進めた挙句、婚約者がいるのに女とベッドインする貴方より、礼議は弁えていると思いますよ?」
ロイにばれないように欠伸を噛み殺しながら、エドワードは艶然と微笑んだ。
拗ねた子供が縮こまるように膝を抱えて、それなのに大人びた艶っぽい微笑を浮かべるエドワードに、ロイは一瞬目を見開いた。
きらきら輝く金色の瞳には、大人の艶なんてものは一切感じられない。しかし、表情は悦楽を愛する大人のように見えた。
アンバランスなエドワードのその様子に、ロイはちょっとだけ、おかしいな…と思った。
逆の女は、それこそ頻繁に見掛けられた。
清楚な振りをして過大な性欲を秘めた貴族の婦女は、貴族の中で特に容貌の整ったロイを目にしたら、ここぞとばかりに取り巻いてきたからだ。
しかし、エドワードは逆だった。
そんな彼女がロイには掴めない。
言葉を出しあぐねるロイに、エドワードは首を傾げた。
(何だ、こいつ。言い返さねーのか?)
言葉も無く自分を見下ろすロイに、エドワードは艶然とした表情を形成するのをやめて、憮然とした表情を向けた。
「図星だからって何も言い返さないんですか。大好きな夜会の場で舐められますよ、嘘でも否定しないと。
貴方が舐められるって事は、婚約者の私も侮られるという事なので、勘弁願いたいんですが」
「………君は随分、演技が上手いんだね。さっきの…」
「そうですね。取り繕う能力が無いと、こんな腐った世界を生きてはいけませんから」
肩を竦めるエドワードに、ロイはああ、と訝しげな声を漏らした。
何かを逡巡するようなロイの声音に、エドワードは懊悩しているのはこちらだと強く思った。